今回の陰茎移植を成功させたファンデルメルベ教授らは、2010年から陰茎移植の技術研究に傾注してきた。近い将来は、陰茎移植は陰茎がんの切除を受けた患者にも適用できる可能性があるという。
陰茎移植の問題点はないのか? 陰茎移植された患者は、ペニスへの拒絶反応を防ぐために、生涯にわたって免疫抑制剤を服用しなければならない。免疫抑制剤は、腎臓や心臓の機能障害、糖尿病や高血圧などのリスクを高め、食欲不振、吐き気、下痢などさまざまな副作用を招く。しかも、免疫を抑制するため、感染症に罹りやすくなり、リンパ腫や肝炎ウイルスによる肝臓がんなどのウイルス性のがんを発症するリスクにも晒される。さらに、臓器移植後のウイルス感染とは別に、肺がん、腎臓がん、皮膚がん、甲状腺がんなどの発症リスクも避けられない。移植患者のがん発症リスクは、一般人の2~4倍という報告がある。
今回、陰茎移植を受けた若者のペニスが、拒絶反応もなく機能できるかどうかは不明だ。だが、2015年6月、ファンデルメルベ教授は米国CNNのインタビューに答えて、「患者のガールフレンドが妊娠4カ月で、11月には出産する予定だ」と話している。明るいトピックだ。
ペニスを失っても生命の維持に影響はないが……
陰茎切除とは何だろうか?
ペニスの喪失は、機能障害だが、生命の維持には直接、甚大な影響はない。機能障害を人に知られることも少ないかもしれない。だが、本人にとっては、心理的にも肉体的にも耐えがたい屈辱感や喪失感に苛まれることは想像に難くない。陰茎移植後に免疫抑制剤の服用でがんや感染症に侵されても、排尿や生殖の機能を正常に保ち続けたい、正常に働くペニスを失いたくない。それが、ペニスを奪われた若者の偽らざる本心だ。
陰茎移植で享ける利益、免疫抑制剤がもたらすリスク。その危ういバランスを感じつつ、若者は一生を送る。そのような若者の人生を少しでも救う手立てはないのか?
たとえば、がんの緩和ケアだ。疼痛管理を行う緩和ケア医、精神症状に対応する腫瘍精神科医、緩和ケア専門の認定看護師、医療ソーシャルワーカー、管理栄養士、薬剤師、理学療法士、作業療法士、臨床心理士など、複数の専門職が連携して、若者の身体的・精神的・社会的苦痛を和らげながら、QOL(生活の質)を改善する。
南アの高い医療水準、患者志向の医療体制なら、十分に対処できるに違いない。遥かなるアフリカの異国、南アの大自然を想い描きつつ、ファンデルメルベ教授らの奮起を期待したい。
(文=編集部)