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【DNA鑑定秘話 第18回】

日本初! 死刑から再審無罪の強盗殺人事件「免田事件」のずさんな鑑定とは?

 免田事件は、何を告発しているのか?

 第1に、警察は違法な別件逮捕・拘束、こづく・殴るなどの暴行・脅迫による自白強要、証人への虚偽の供述強要とアリバイ潰しなどの違法捜査を意図的に行った。

 第2に、検察側は無罪を裏付ける重要な証拠である鉈(なた)、マフラー、手袋などの提出を「紛失した」として、証拠提出を拒否した。さらに、凶器と創傷は一致しないこと、着衣に免田さんの血痕は付着していないことを科学的に実証した弁護側のABO型による血液型鑑定を正当な理由なく排斥し続けた。

 第3に、地裁、高裁、最高裁は、アリバイが成立していること、警察の暴行・脅迫による自白に任意性・信用性がないこと、自白の内容は被害者の創傷や凶器と合わないこと、さらには、ABO型による血液型鑑定で免田さんの血液型は検出されなかったことなど、無罪を明瞭に示す証明があるにもかかわらず、アリバイを立証する物証や証言にまったく触れずに誤審・誤判を繰り返した。

 以上の論点のうち、誤判の主原因である血液型鑑定の問題点を指摘しよう。

ずさんな血液型鑑定の実態

 ABO血液型は、タンパク質の性状の違いを識別する検査法だ。鑑定は、オモテ検査とウラ検査の2種類の検査を用いて行う。オモテ検査では、赤血球と試薬の抗A血清と抗B血清を反応させて凝集の有無を判定する。ウラ検査では、血清と試薬であるA型血球とB型血球を反応させて凝集の有無を判定する。

 弁護側が行ったABO血液型によるオモテ検査とウラ検査によれば、被害者と免田さんの血液型は一致しなかった。

 2種類の検査法を用いるのは、血液型をさらに細分化した亜型を誤って判定するのを防ぐためだ。オモテ検査とウラ検査が一致しない場合は、亜型の存在が推定されるが、弁護側が提出しようとした血液型鑑定では、亜型は検出されなかったことから、血液型鑑定の精度も信用性も高いと思われる。

 さらには、以下の諸点が解明されていない。

 凶器とされる鉈(なた)の柄に付着していた血痕の血液型は、血液が微量で新しくなかったために、判定には相当の時間を要したはずだ。だが、検察側は、採取後6時間で判定したとする警察の鑑識結果を証拠に採用した。その判定の信用性は極めて疑わしい。

 なぜなら、精確な血液型鑑定を行うためには、数ml以上の新鮮な血液が必要になるからだ。さらに、出血後、数日から1ヶ月が経過した血痕から採取されたDNAは、断片化しているために判定できない。

 また、免田さんの着衣に血痕の付着が認められない点、現場に指紋がない点も未解明のままだ。

 このように自白と客観的証拠が一致しない、裏付けとなるべき物的証拠が存在しない。それが免田事件の真相だ。

 弁護団を勤めた眞部勉弁護士(第一東京弁護士会)と古原進弁護士(長崎県弁護士会)は、「警察と検察は2つの大罪を犯した。1つは、1人の無実の人間を死刑台に送ろうとしたこと。2つは真犯人を永久に取り逃がしたことだ」と権力側の恣意を告発している。

 権力側の夥しい重大な過誤によって、裁判所は免田さんの有罪を認定し、死刑を宣告した。司法の誤審・誤判は、逮捕から34年6か月、死刑判決から31年7か月、免田さんを絶望と死刑執行の恐怖に陥れた。

 このような国家権力を行使する警察、検察、裁判所の違法性、有責性、非人道性は、強く弾劾されなければならない。

 免田さんは、数冊の著書を出版し、自身の体験と冤罪の恐怖を赤裸々に語っている。人権の大切さを訴える全国講演も行い、死刑制度の廃止を強く主張してきた。2001年、フランスのストラスブールで行われた第1回死刑廃止世界会議に参加。2007年、ニューヨークの国際連合本部のパネルディスカッションでも、死刑制度の廃止を世界に訴えている。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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