1型糖尿病は、自己免疫の異常によってインスリンを合成する膵臓のβ細胞が破壊されるためにインスリンが欠乏し、高血糖になる疾患だ。8~12歳の思春期の発症が多いが、幼児や成人にも見られ、日本人の有病率は1万人当たり1人と高い。
1型糖尿病の再生医療は、どのような状況なの? 1型糖尿病の細胞治療は、長年にわたって米国のバイオテク企業ViaCyte社が研究に携わってきた。2014年、同社はFDA(米国食品医薬品局)の治験開始の承認を得て、カリフォルニア大学でヒトES細胞を使った細胞移植を世界に先駆けて実施。この細胞移植は、まずヒトES細胞からインスリン産出細胞を大量に生産して透過性カプセルに封入し、患者の皮下組織に移植する方法だった。
この移植法の利点は、患者の血液中の血糖濃度に応じて移植細胞が適度のインスリンを分泌するので、現在行われているインスリン注射よりも高い治療効果が期待できる点だ。また、透過性カプセルを患者の皮下組織に直接移植するため、移植細胞を膵島(膵臓の一部)や肝臓に移植する必要がないことから、患者が受ける侵襲や負担が少ない点も大きなメリットだろう。
さらに、血液や体液中の血糖値に応じたインスリンを血液中に放出するだけなので、移植細胞を透過性カプセル内に封入したまま治療が行える簡便性は大きい。なぜなら、もしも移植細胞ががん化しても、カプセルごとに取り出せるため、安全性が高いからだ。しかも、免疫細胞がカプセル内に侵入しなければ、生体の拒絶反応も起きにくい。ただし、血糖値を常に安定させるためには、患者ひとり当たりおよそ10億個もの大量のインスリン細胞を移植しなければならない。
したがって、大量生産できる生産工場で、移植細胞を封入した透過性カプセルを生産しながら、冷凍保存し、世界中に流通させる仕組みが必要になる。しかし、このシステムは、ビッグファーマ(大手製薬企業)がすでに確立している医薬品の流通プロセスに細胞医薬品として乗せれば、解決するだろう。
実用化するためには、信頼性、有効性、安全性が十二分に確認され、とくに品質管理とコスト管理に万全を期さなけばならないのは言うまでもない。次回は、パーキンソン病の再生医療をテーマに、分かりやすく具体的に話していこう。
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。