今回の判決はどのような意義があるのだろうか。
オバマケアでは慢性疾患が保障の範囲に入り、既往症を持った人も保険に加入できるようになったので、医療費の支払いリスクが高まった。そのため、これまで職場を通じて比較的安い保険料で充実した医療保険を享受してきた人の保険料が引き上げられ、薬代の自己負担額も高くなるケースが増えた。他方、保険会社は、数千万人の新規顧客が増えた上に、政府の補助金によって取りこぼしがなくなった。
これまで医療保険を購入できなかった低所得者層は、補助金を受け取ることで医療保険に加入できるようになり、それは一見すばらしいことのように見える。
しかし、本当にそうだろうか。保険会社が指定する医療機関が近くになく、医療サービスを受ける機会が少ないという地域もある。それ以上に深刻な問題は、政府が補助金をばらまいて強制的に低所得者層に民間保険を購入させている事である。補助金はやがて既得権益となり、法で守られた国民の権利としてさらに多くの補助金を要求するようになり、自律した市民になる気概を失っていくのである。
加えて、医療保険者が増えるに従い、補助金支出による財政負担も大きくなる。2019年までに93兆円もの支出になるといわれている。議会予算局の試算では、医療関係業界への課税や医療費抑制等により、最終的には10兆円以上の財政赤字削減につながると予測をたてているが、楽観的すぎるという批判もある。実際、2015会計年度上半期(2014年10月〜2015年3月)の財政赤字は、前年同時期と比較して6.3%上昇しており、2014年1月から本格的に実施されたオバマケアの影響が大きいと言われている。
オバマケアは、数千万の無保険者を医療保険に加入させるという、極めて重要なことを実現した。このようなすばらしい業績の裏には、必ず負の側面が付随している。それは、国家の多大な介入により国民が次第に政府に依存しすぎる傾向になることと、財政赤字が膨れ上がる可能性を秘めている点である。オバマケアのプラスの面とマイナスの面のバランスをどのようにとっていくかが、今後のアメリカの課題といえよう。