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【連載第19回 いつかは自分も……他人事ではない“男の介護”】

介護者を置き去りにした法改正、他者に頼りたがらない男性介護者はさらに孤立する

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頼れる専門家は介護初心者には不可欠 shutterstock.com

 「あったらいいな 介護者の 介護保険」

 介護をテーマにした市民講座のお誘いを気軽に引き受け、その忙しさに後悔することもある。だが、それが縁でネットワークも広がり、教えられることも多く、あちらこちらを楽しく動き回っている。結果オーライだ。

 この春に行った、愛知県春日井市のイベントもそうだった。冒頭の川柳は、そのイベントのついでに立ち寄ったNPO法人でもらった『介護川柳』(2013年)に載っていたものだ。介護する人を、支援することに無関心な介護保険制度への"異議申し立て"に違いない。「ホントにそうだよね」とストンと胸に落ちる。

改正介護保険法でどう変わる?

 

 この4月から、改定介護保険法が施行された。

 重度者への介護資源の優先配分ということだろうか、要支援者のヘルパーやデイサービスの利用を各自治体に移し、特別養護老人ホームの入所は要介護3以上にするという、財政課題が先行した改定である。また、一定所得以上の利用者負担を2割と改められた。特養などの施設整備は在位的に現実的でないとされ、医療や介護、住まいなどを一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の整備で対応するという。

 でも、財政課題というなら、24時間365日の地域包括ケアシステムこそ、ハイコスト政策ではないか。緊急の連絡を受けたら30分以内に駆けつけ利用者のニーズに応えていくのには、特養の何倍もの職員配置と莫大なタイムラグが生じるのではないか。施設と違い、一様ではない住まいや移動の環境は、ケアサービスの提供をより複雑かつ困難にするのではないか。

 また、要支援者を外したことにしても、軽度者だからと言って介護生活に難がないわけではない。むしろ、認知症者の介護などに端的に表れているが、本人も家族も要介護症状が始まった初期段階にこそ、不安や焦り、葛藤や混乱に見舞われるということもがわかっている。

 だからこそ政府も、初期集中支援チームを組織して、早期発見・早期診断、そして適切なケアへの誘導を何よりも優先して主張したのではなかったのか。要支援1や2の段階で、専門家・専門機関との接点が脆弱になるのは、この方針にも逆行する。しかも、介護報酬も削減された。

 財政を理由に「地域包括ケアシステム」というのであれば、その狙いは透けて見える。施設整備の抑制は、ケアの劣化を招くだけだ。お泊まりデイや一部のサービス付き高齢者向け住宅などの実態を見れば、すぐにわかることだ。

男性介護者は初期段階で専門家に相談すべき

津止正敏(つどめ・まさとし)

立命館大学産業社会学部教授。1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科修士課程修了。京都市社会福祉協議会に20年勤務(地域副支部長・ボランティア情報センター歴任)後、2001年より現職。専門は地域福祉論。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長。著書『ケアメンを生きる--男性介護者100万人へのエール--』、主編著『男性介護者白書--家族介護者支援への提言--』『ボランティアの臨床社会学--あいまいさに潜む「未来」--』などがある。

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