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【インタビュー 生活習慣病の発症は胎児期に決まる 第3回 早稲田大学理工学術院総合研究所・福岡秀興教授】

妊娠中の「低炭水化物食」に注意! 子どもが肥満を引き起こす可能性あり

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妊娠中に何を食べるべきか それが問題だshutterstock.com

 "痩せ願望"の強い女性の中には、妊娠中でもできるだけ体重を増やさないように心がけている人がいる。「成人病(生活習慣病)胎児期発症起源説(DOHaD説)」を唱える福岡先生は、「健康な次世代を産み育むことを考えると、女性の"痩せ願望"は決して望ましいものではありません」と警鐘を鳴らす。

 また女性の"痩せ願望"がもたらした間違ったダイエット方法のうち、妊娠中の「低炭水化物食」は子どもに肥満を引き起こす可能性があると言われはじめている。

―日本の女性の"痩せ願望"の弊害は、妊婦だけでなく女性一般の健康上の弊害といえますか?
福岡:ダイエットによる痩せ過ぎで、卵巣の機能が低下してしまうことがあります。卵巣は女性ホルモンを分泌しており、これは女性の健康を決める重要なホルモンです。女性ホルモンが減少する閉経時期を境に、動脈硬化や心筋梗塞などが急激に増えることからも、その働きの重要さが理解できます。

 健康を維持するための必要不可欠な女性ホルモンがダイエットによって激減すると、若い女性でも循環器系疾患を発症するリスクが高まります。

―このまま女性の"痩せ願望"が続くと、どのようなことが予想されますか?
福岡:歴史を紐解いていくと、「女性の"痩せ願望"は国が滅びていく最初の社会現象である」と言う学者もいます。先にも申し上げたとおり、女性のダイエット志向が、子どもの出生体重の減少化や低出生体重児の増加につながっています。

 外国でこの分野を専門とする研究者の中には、「このままの低出生体重児の高い割合が続くと、日本はあと数十年しかもたないのでないか」と心配する方もいます。低出生体重児の割合は現在、約10%。10年間で約100万人近くの低出生体重児が生まれると予想されます。女性の痩せ願望が続き、低出生体重児を増やすと、国の活力が大きく低下していくことになりかねません。

―望ましい妊婦のエネルギー摂取量はどのくらいですか?
福岡:多くの調査では、妊婦のエネルギー摂取量の平均は、全妊娠期間を通じて1600~1700kcalと言われています。妊娠末期では2400~2500kcalが望ましいと言われていますから、多くの妊婦さんがエネルギー摂取不足です。

―最近、「炭水化物を抜く」ダイエットが流行しています。
福岡:炭水化物を少なくしてはいけません。炭水化物はヒストンたんぱくを修飾する重要な物質であり、特に妊娠前半に炭水化物の摂取を抑制すると、子どもに肥満体質が生じることが明らかとなりました。

 妊娠していないとき、ダイエットのために炭水化物を制限するのは、一時的に効果があるかもしれませんが、長期的な観点から見ると、本当に人体に影響がないか疑問だと言われています。

―炭水化物のほかにも脂抜きダイエットもあります。
福岡:脂抜きダイエットについてですが、オリーブオイルの成分であるオレイン酸は、血中コレステロールを滅らし、悪玉コレステロールをコントロールする働きがあります。また脂肪は、たくさんの物質で構成されており、その機能はまだ研究の段階です。さらに脂肪酸は、遺伝子の機能を調節することも知られています。いずれにせよ、摂取不足と過剰摂取は望ましくありません。

―やはり妊婦は、太り過ぎも問題ですが、痩せ過ぎは子どもに大きな影響を及ぼす?
福岡:そのとおりです。痩せた状態で妊娠した場合や、妊婦の体重増加の抑制による栄養不足などで胎児が低栄養にさらされた場合、胎児にエピジェネティックスの変化を引き起こす可能性があります。

 それを防ぐために、「妊産婦のための食生活指針」や「日本人のための栄養摂取基準」などのガイドラインを元にした妊婦への積極的な栄養指導こそが大事なのです。重要なことは、日本女性の痩せるのが望ましいという価値観を変えることでしょう。
(インタビュー&文=夏目かをる)

福岡秀興教授インタビューバックナンバー

福岡秀興(ふくおか・ひでおき)

早稲田大学理工学術院総合研究所教授。東京大学医学部卒業後、東京大学助手(医学部産婦人科学教室)、香川医科大学助手、講師、米国ワシントン大学医学部薬理学教室 Research AssociateRockefeller 財団生殖生理学特別研究生、東京大学大学院助教授を経て、平成19年より早稲田大学胎生期エピジェネティック制御研究所客員教授。平成23年より同大学総合研究機構研究院教授、平成27年より現職。厚生労働省の第6次、第7次「栄養所要量」、「妊婦のための食生活指針」策定委員等なども歴任、日本の成人病胎児発症説研究の第一人者として、妊娠中や思春期の食の問題に取り組む。『胎内で成人病は始まっている』(デイヴィッド・バーカー著)を監修・解説。日本DOHaD 研究会代表幹事。米国内分泌学会会員,日本内分泌学代議員、日本母性衛生学会監事、評議員(日本骨代謝学会、日本骨粗鬆症財団、日本妊娠糖尿病学会、日本性差医学研究会、日本臨床栄養学会、日本産婦人科学会東京地方部会 他)、認定臨床栄養学術師(日本臨床栄養学会)、 産婦人科専門医。著作は『災害時の栄養・食糧問題』(建帛社)、『ビタミン・ミネラルの科学』(朝倉書店)『子供の心身の危機をどう救うか』(ナップ社)『臨床栄養医学』(南山堂)『SGA性低身長症のマネジメント』(メディカルレビュー社)『NHKスペシャル 病の起源2』(NHK出版)など多数。

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