「実は腸には約1億個もの神経細胞が集まっていて、もともと第二の脳とも言われているのです。更に『リラックスホルモン』とも呼ばれるセロトニンは9割以上が腸管で作られていることも重要です」
セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンと共に「三大神経物質」とされ、不安やイライラを抑える働きがある。不足するとうつ病や不眠症を引き起こすとも言われ、腸内環境は善玉菌20%、悪玉菌10%、日和見菌70%という割合が良好だが、この基準値より悪玉菌が増えたりすると、セロトニンの不足を引き起こしてしまう。
「現在、腸が作り出すセロトニンが脳の活動に影響を与えていると完全に証明されているわけではないのですが、多くの専門家が精神状態を相当に左右しているだろうと考えています。実際、今回の調査でも腸内環境が悪い人ほど落ち込みや不安、疲労感の増加を訴えていますし、内向的な性格の遠因になっている可能性さえ浮き彫りになりました」
せっかく受験や就活で夢を叶えたとしても、新しい環境になじめないと「五月病」になってしまうことはよく知られている。だが、これも腸内環境が影響を与えているかもしれないのだ。
「4、5月は寒暖差が大きく、気圧も低下傾向を示します。これは自律神経を乱れさせ、腸内環境の悪化を引き起こすことも珍しくありません。実際、春に便秘になることは多く、メンタルヘルスが低下する可能性は高い。むしろ寒暖差が少なく、高気圧で安定するという腸にとっての理想的な時期は9、10、11月と、2、3月の合計5か月ぐらいです。残りの7か月は、いつ五月病になってもおかしくないのです」
ストレスと原因となる完璧主義こそ腸内環境の敵
当然ながら気候を人間の力で変えることはできない。となると、少しでも腸内環境を改善できる食事が重要になってくる。
「重要なのは発酵食品と食物繊維を摂取することで、例えばヨーグルトとキウイは理想的な組みあわせの1つです。ヨーグルトは『菌が生きたまま届く』と明記しているタイプを選ぶのもひとつですね」
キウイは1個でバナナ2本分の食物繊維がある。ニュージーランド産は春から初夏にかけて旬ともされ、今後は店頭に多く並ぶ。
「調理も簡単で、気軽に食べることができます。とはいうものの、どれほど体にいい食材でも、無理して食べるとストレスを生み、腸内環境を悪化させてしまいます。自分にとって美味しく食べられる発酵食品と食物繊維を探すのが一番ですね」
便秘外来で多くの患者に接する小林教授は「何よりもストレスの原因となる完璧主義が腸内環境の敵」と言う。
「便秘で悩む患者さんは完璧主義の人が多いんです。だから便秘を治すポイントは逆説的ですが、『便秘が完璧に治るのは諦めてもらう』ことなんです。『便秘を治さなければならない』『腸内環境をよくしなければならない』という『何々をしなければならない』と考えることほど、腸内環境を悪化させることはありません。無理のない計画を立てられる人、見切りをつけるのが上手な人は腸内環境が良好である可能性が高く、安定したメンタルヘルスで自分の能力を発揮できやすいのです」
"断腸の思い"とは、ご存じの通り、辛く悲しい思いのことを言う。入試や就活、愛する異性への告白でそんな目に遭わないためにも、腸内環境に気を配るのは大切なことなのだ。
(文=編集部)