握力は強力な早期死亡の予測因子? Graphs/PIXTA(ピクスタ)
"握力検査"で、心臓発作、脳卒中、早期死亡のリスクが高い人を特定できる可能性がある――。そんな研究が、有力医学誌『The Lancet』(5月13日号)に掲載された
カナダ、ハミルトン・ヘルスサイエンス/マクマスター大学公衆衛生研究所(PHRI)のDarryl Leong氏らは、17カ国の成人14万人弱(35~70歳)を平均4年間にわたり追跡調査した。
その結果、握力が5 kg低下するごとに全原因死亡リスクが16%、心臓関連死が17%、非心臓関連死が17%上昇することが分かった。また、握力が5 kg低下するごとに、脳卒中リスクが9%、心臓発作リスクが7%上昇した。
ちなみに、握力と心臓発作・脳卒中・早期死亡リスク上昇の関連性は、年齢、学歴、喫煙、飲酒、運動、雇用状況などの因子を考慮しても変わらなかった。
この研究は、握力と心臓発作・脳卒中・早期死亡リスクの関連性を示したが、因果関係を証明するようにはデザインされていない。それでも、「握力は、収縮期血圧(最高血圧)よりも強力な早期死亡の予測因子であるようだ」とLeong氏らは話している。
さらにLeong氏は、「握力検査は、死亡や心血管疾患のリスクを評価するための簡単で安価な指標である可能性がある」とし、「筋力を向上させる取り組みが死亡や心血管疾患のリスクを低減する可能性があるかどうか調べるにはさらなる研究が必要だ」と述べている。
握力の強さは個人の体の大きさや体重、民族によって異なる可能性がある。そのため、さらに誤差を調整するための研究を重ねる必要がある。また、筋力が健康のバロメーターになると思われる理由や、その改善が死亡や循環器疾患のリスクを緩和できるかどうかを解明するにも、さらに研究が必要だ。
小中学生が過去最低の握力低下、将来の健康は......
文部科学省が公表した平成26年度の全国体力テストで、「握力」と「ボール投げ」は小中の男女とも過去最低だった。測定した8種目のうち、「上体起こし」(腹筋運動)が小学男女で過去最高となった一方、「握力」「ボール投げ」は小中全てで最低か最低に並んだという。種目の得手・不得手が鮮明になり"二極化"が進んでいるようだ
この結果について、専門家からは、「キャッチボールなどの"投げる"機会が少なくなっている」「野球人口が減りサッカー人口が増えるなど環境の変化も影響」という分析の声があったという。
「握力低下と死亡リスクの上昇」という冒頭の研究報告を考えると、子どもたちの将来の先行きが不安である。
握力以外にも"速く歩くこと"が健康寿命の長さに関連
握力とともに、健康寿命の長さに関連する能力がある。"速く歩くこと"だ。
2010年、速く歩くことができる人は健康寿命が長いといえる調査結果が注目を集めた(Arch Intern Med.170(2):194-201,2010)。女性1万3535人(研究開始時30~55歳)に対して9年後に歩行速度を調査し、その時の歩行速度と70歳になった時の健康状態の関連を調べた。
すると、ゆっくり歩きの人(歩行速度が時速3.2km未満)に対して、普通の速度(同3.2~4.8km)は1.9倍、やや早歩き(同4.8km以上)は2.68倍、"サクセスフルエイジング達成率"が高かった。
サクセスフルエイジング達成率とは、がんや糖尿病、心臓疾患や脳疾患などにかからず、認知障害もなく健康な状態でいられる率のこと。
2011年には、歩行速度が寿命の長さに関連している可能性を示唆する研究成果が発表されている(JAMA.305(1):50-8,2011)。9件の疫学研究(1986~2000年に実施)に参加した65歳以上の男女3万4485人を対象に、歩行速度と平均余命との関連を調査。
その結果、いずれの年齢でも、歩行速度が速い人ほど平均余命が長いことが確認されている。歩行速度から導かれる生存率は、疾患歴や喫煙歴、BMI、入院歴、介護状態などによる予測と同じくらい正確だという。
身体機能の低下のなかでも「握力」「歩行速度」は、"健康"とのかかわりの大きさはいなめないようだ。この2つの能力低下の兆候には、注意すべきだろう。
(文=編集部)