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【連載第6回 グローバリズムと日本の医療】

「選択」と「競争」の視点から考える――日本がアメリカの医療保険制度から学ぶことはあるのか?

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オバマケアは、自由と平等というアメリカ建国の理念に反する!? miker / Shutterstock.com

 オバマ政権下の医療保険改革は、公正さを実現するための実験である。そして、公正さに欠ける日本の医療保険制度は、アメリカの医療保険改革から多くのことを学ぶ必要がある。なお「公正さ」とは、「競争と選択の提供により国民の自由を保証すること」と定義づける。

 アメリカの医療保険制度にも勝るのが世界に冠たる日本の国民皆保険で、「人類の常識」が通用しないのがアメリカの保守派であり、「日本の皆保険はすばらしい」という論調がある。

 いつでも、どこでも、誰でも、比較的低料金で医療サービスを受けることができ、そのおかげで日本人の平均寿命は飛躍的に伸びている。日本は経済協力開発機構(OECD)諸国の中でも国民医療費が低く抑えられ、まさに世界の見本になるようなすばらしい医療制度である――。

 確かに、このような側面は、非常に良い面だと言える。しかし、この「良い面」と対になっている「裏面」を、なぜ日本人は見ようとしないのだろうか? この「良い面」を実施するためには、非常に強力な中央集権体制が必要であり、「良い面」が進展すればするほど、必然的に国家の権力が肥大化していくのだ。そして国家権力の肥大化によって、公正さが押しつぶされる可能性も大きくなる。

「パブリック・オプション」をめぐる議論が意味するもの

 オバマケアで最終的には採用されなかったが、大きな話題になったのが「パブリック・オプション」である。

 これは連邦政府が保険者となる医療保険プログラムで、当初、民間医療保険プログラムとともに、主に無保険者を対象に提供されることになっていた。日本は公的医療保険による国民皆保険だが、アメリカにはメディケアなど、限定的にしか公的医療保険がなく、皆保険に公的医療保険を加えるか否かは、その改革の性質を見極める上で重要である。オバマも当初は、パブリック・オプションの導入を進めていた。

 しかし、共和党を中心とした保守派は、オバマの医療制度改革が自由(国家権力からの自由)、平等(機会の平等)、民主主義という米建国の基礎となった理念から逸脱している点を批判した。

 これに対してオバマ大統領は、「基本理念は選択と競争により消費者はより良いサービスを受けられることである」と主張する。

 オバマにとってパブリック・オプションは、民間医療保険業界が寡占状態で暴利をむさぼることなく、選択と競争を提供するという目的を達成するための手段に過ぎないものであり、選択と競争が確保される状況であれば、パブリック・オプションの導入そのものにはこだわらなかった。

 最終的にオバマ大統領は、パブリック・オプションを法案に含めないことに同意した。オバマ大統領も選択と競争こそ重要視した価値観なのである。そういう意味において、オバマと共和党員を中心とした保守派との間には、公正さを担保するという点では共通点があると言っても過言ではない。

 ひるがえって、世界に冠たる日本の皆保険を考えると、職業や住む地域によって国家から一つの医療保険を強制的に付与されており、国民には医療保険を選択する余地はなく、各保険者は互いに競争することもない。診療報酬、薬価、治療方法まで、すべて中央で決められる社会主義的医療保険である。

 このように選択と競争を視野に入れない日本と比較すれば、オバマケアの方が公正さという点では勝っているのではなかろうか。アメリカの医療制度改革は、医療における競争と選択の重要性に関して検討する機会を提供している。


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