大切なのは依存対象との距離 filipefrazao/PIXTA(ピクスタ)
池袋の本院のほか、東京都内に3つの分院を展開する榎本クリニック。日本における精神科デイケアの草分け的な存在だ。同クリニックの深間内文彦院長に依存症の治療について話を聞いた。
「現在、当クリニックでは薬物、ギャンブル、そして性依存の問題を扱っています。最近増えているのはインターネッやスマホの依存。社会に"新しいもの"が登場して拡大すると、新たな依存症が生まれます」
「たとえば、パソコンのアダルトサイトの存在は、それにのめり込むことで依存者が現れる。サイトの運営者は、来訪者が中毒化するような衝動を喚起させる工夫をしてるわけです。"リピーターをつくる"、言いかえれば一種の依存をつくることが商売につながります。さまざまな依存症が増えるのは、我々の住む社会が仕組んだワナのようなものかもしれません。熱狂的なアイドルグループも、中毒的な魅力があるから惹き付けられるのです」
特に今の若者は、身近なものに頼ることで自らの存在価値を見出したいと思う傾向があり、それがスマホやLINE、ツイッターへの依存につながっている、と深間内院長は指摘する。
「依存とは、対象から何らかの快感がもたらされ、その快感を求めて反復するうちにはまり込み、自らの意志とは反対にやめられなくなる状態です。依存の形成には、3段階あります」
①偶然からの学習
「パチンコ初心者がビギナーズラックで儲かる」ように、嫌な気分を忘れられたり、疲れがとれるような報酬や快感の経験。
②必要性から繰り返す反復
寂しさや気分の落ち込みなど紛らわすために、高いテンションを維持するために、その行為を繰り返していく。
③脳がバランスを崩していく
刺激に対して耐性ができ、最初に得られたような快感を得るためにより刺激的なものを求める。刺激に満足できなくなると、ついには禁断症状が表われる。
デイケアの存在意義は「生きがい」の創造にある
依存にはさまざまな種類がある。わが国には、推定でアルコール依存症は500万人以上、ギャンブル依存症は200万人以上、薬物依存は50万人~100万人いるといわれている。
「当クリニックではこれらに依存以外に、うつ病休職者や高齢者、発達障害、高次脳機能障害などの方を対象のデイケアを行っています。その目的は主に3つ。①ここに『居がい』を持つことで成熟した依存を形成する、②デイケアに行く『行きがい』を持たせることで課題達成的生き方を形成する、そして③自己実現で『生きがい』を発見する、ことです」
患者のなかには、10年以上デイケアに通っている人もいる。はたして、デイケアの治療ゴールは、どこに設定されているのだろうか。
「目指すのは社会参加。ゴールのひとつは就労です。とはいえ、年齢や能力の問題もあるので、一般的な就職はなかなか難しい。福祉的な就労や作業所に落ち着くという人も多いですね」
人は皆、多少は何かに依存しながら生きているのではないだろうか。最後に、そんな疑問を投げかけてみた。
「バランスをとって、依存対象との距離を保てるかが大切です。スマホ依存も、すべてのスマホ所持者がそうなるわけではない。つまり、酒や薬物、ギャンブルなどの対象物だけが問題ではないのです。時代の変遷とともに、新たな生きづらさは派生するからです。私たちも常に、時代に応じたデイケアを用意する必要性を感じています」
榎本クリニックは、精神医療における時代のニーズに応えるべく、全国大学メンタルヘルス研究会、日本デイケア学会、日本「性とこころ」関連問題学会、日本「祈りと救いとこころ」学会などを創設。今後もグローバル社会における精神医療の役割が期待される。