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【連載第12回 薬は飲まないにこしたことはない】

菌に敏感になりすぎるから病気になる! 消毒・除菌・殺菌に潜む落とし穴

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過度な除菌・殺菌剤の使用は免疫力を低下させるだけ shutterstock

 すり傷や切り傷ができたら、消毒薬を塗り、絆創膏やガーゼで覆うことが常識だった。消毒薬が傷口にしみても、泡が立つ様子を見て「効いている」と安心していた人もいるだろう。しかし最近、消毒薬の傷口への使用が身体の免疫力を弱めることが明らかになり、従来の認識が覆されようとしている。

 血液中の白血球は、免疫機能の中心的存在である。何らかの理由で傷ができると外部から体内にばい菌などが侵入しようとするが、傷から血が流れるのは白血球がそれを防ごうとするからだ。また、血中の血小板は出血を止める役割を果たす。このように、消毒薬がなくても、すでに身体には傷を治すメカニズムが整っているのだ。

 なかには「消毒薬を塗れば、さらに傷の治癒を早めてくれるのでは?」と思う人もいるだろう。しかし、消毒薬は人工的に合成された化学物質のため、悪い菌だけでなく身体を守る良い菌も一緒に殺し、さらには白血球までも壊してしまう。また、乾燥した場所では白血球の働きが妨げられるため、ガーゼや絆創膏の使用も避けたほうがよい。

 現在、主流になりつつあるのは、これまでの消毒・乾燥処置とはまったく異なる「湿潤療法」だ。傷口を流水で洗い、ワセリンを塗った後にラップをし、乾燥させないようにする方法で、処置の目的は傷を治すことではなく、白血球の持つ傷を治す力を引き出すことにある。「傷を治すのは薬ではなく自分の身体だ」という真理に沿った方法なのだ。

菌に敏感すぎると免疫力が低下する

 最近のO-157やノロウイルスによる感染症の流行のせいか、むやみに除菌や殺菌を行う人が増えている。スーパーの棚に並ぶ除菌・殺菌グッズの種類の多さは、「日本人のきれい好きは度を超えている」と思ってしまうほどだ。

 こうした感染症が話題になると、不思議なことに皮膚科の患者が急増するという。なぜ内科ではなく皮膚科なのか? まず、感染症が流行すると、店やオフィスビルの入口に手の除菌・殺菌用ジェルが置かれるようになる。たいていの人はそれを見ると「使わないといけない」という気持ちになり、使用回数が増え、結局は手が荒れてしまう。そして手荒れの原因が除菌ジェルと結びつかず、心配になって皮膚科に行くことになるのだ。
 
 過度な除菌・殺菌剤の使用は、ばい菌から身体を守る皮膚表面の皮脂膜を破壊する。またそれだけでなく、皮脂膜と同様外敵から身体を守ってくれる、人体に生息するビフィズス菌や大腸菌などの常在菌を殺すことにもなりかねない。

 日本人には菌に敏感すぎる人が多く、そのことが免疫機能を下げ体を弱める原因になっている。以前にも述べた通り、ウイルスに感染したからといって必ずしも発症するわけではない。しかし、免疫力が低く弱った体では、感染後、発症しやすくなってしまう。私たちは菌とともに生きている。感染症を予防したいのなら、悪い菌に負けない強い身体を作ることが重要になるだろう。

 通常は、石鹸での手洗いやうがいを忘れずに行っていれば、それらが十分な予防となるが、これまで過度の除菌や殺菌行ってきた人は、免疫機能が低下しているおそれがある。その場合、除菌・殺菌をすべてやめるのではなく、徐々にうがいと手洗いに移行するようにしてほしい。


連載「薬は飲まないにこしたことはない」バックナンバー

宇多川久美子(うだがわ・くみこ)

薬剤師、栄養学博士(米AHCN大学)、ボディトレーナー、一般社団法人国際感食協会代表理事、ハッピー☆ウォーク主宰、NPO法人統合医学健康増進会常務理事。1959年、千葉県生まれ。明治薬科大学卒業。薬剤師として医療の現場に身を置く中で、薬漬けの医療に疑問を感じ、「薬を使わない薬剤師」を目指す。現在は自らの経験と栄養学・運動生理学などの豊富な知識を活かし、薬に頼らない健康法を多方面に渡り発信している。その他、講演、セミナー、雑誌等での執筆も行っている。最新刊『薬を使わない薬剤師の「やめる」健康法』(光文社新書)が好評発売中。

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