平成23年度の厚生労働省の統計によると、アトピー性皮膚炎の患者数は36万9000人。しかし、皮膚科の医師の中には「医療機関で診療を受けていないだけで、自分がアトピー性皮膚炎だと実感している患者は、この数字よりもはるかに多いのではないか」という人もいる。
アトピー性皮膚炎を発症する要因としては、細菌、遺伝、栄養、環境など、様々なものが考えられるが、その症状を調べてみると、皮膚の角質細胞間脂質に含まれている「セラミド」という物質が、通常の半分以下まで減少していることがわかる。セラミドは、近年、美肌のための必須成分として喧伝されるので、名前くらいは聞いたことがあるという方も多いだろう。
細胞シグナル伝達物質、つまり、外部からの刺激(信号)を受け取って別の物質に伝える役割を持つセラミドは、「プログラム細胞死」ともいわれるアポトーシス(apoptosis)を制御している。アポトーシスとは、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺のこと。要するに、「セラミドには、皮膚細胞の死を抑制する働きがある」ということだ。
このセラミドが上手く合成されない、あるいは減少すると、皮膚が乾燥して炎症が起き、アトピー性皮膚炎などが引き起こされる。
アトピー性皮膚炎の特徴は、温度や湿度、ほこり、汗、ストレスなど、様々な要因で症状が変動する点にある。その最も影響を及ぼす要因として知られているのが「季節変動」だ。多くの場合、夏に症状が軽くなり、冬に悪化する。ただし、人によっては、汗をかくことで逆に夏に症状が悪化する人もいる。
米マサチューセッツ総合病院のCarlos Camargo氏らが、モンゴル健康科学大学と協力して行った研究によると、冬に悪化する小児のアトピー性皮膚炎に対しては、「ビタミンDサプリメントを服用」することで症状が改善する傾向にあるという(論文は「Journal of Allergy and Clinical Immunology」に掲載)。
この研究は、モンゴルの首都ウランバートルにある9カ所のクリニックを受診した2~17歳の小児107人を対象としており、その全員が秋から冬にかけて悪化するアトピー性皮膚炎であった。被験者は、ビタミンDを毎日1000IU(1IU=0.025μg)投与する群と、プラセボ群(偽薬を投与)に無作為に分けられ、1カ月後、小児の両親に症状が改善したかどうかを質問した。結果は、ビタミンDを投与した群では平均29%に症状の改善が認めら、プラセボ群では16%だった。
ビタミンDはサプリメントで補うべき?
研究の対象となった被験者数と出た結果の数字に有意差があり、ビタミンDの効果が十分に証明されたというには、微妙な数字だと言わざるを得ない。Carlos Camargo氏も「ビタミンDが成人や通年症状のある小児でも有用かを調べるには、さらなる研究が必要だ」としている。
ただし、韓国で行われた一般成人を対象とした研究では、ビタミンD不足の人は通常の人と比較して約1.5倍アトピー性皮膚炎が多く見られるとの報告もある(オンライン版「Journal of Allergy and Clinical Immunology」誌2013年12月30日号の掲載報告)。
その効果が十分に検証されてはいないものの、小児の場合は冬にアトピー性皮膚炎が悪化したら、すぐにビタミンDを摂取すればいいのか?
ビタミンDはカルシウムの吸収を助け、骨や血液中のミネラル濃度を調整する重要な栄養素だ。しかし、過剰に摂取すると、食欲不振や便秘、嘔吐、そして腎臓に障害がある人は「毒尿症」といった副作用を生じさせる可能性があることを忘れてはいけない。
ビタミンDを過剰に摂取すると、血液をはじめ様々な臓器にカルシュウムが蓄えらるようになる。なかでも腎臓にカルシウムが過剰に蓄積されると機能不全となり、尿中に排泄されるべき代謝老廃物などが血液に溜まってしまう。これが毒尿症だ。意識喪失に至ることの多い脳症状や胃腸障害など、全身に多彩な症状が出現する。血液から尿をろ過する腎臓の糸球体の機能が 10%以下になると症状が出はじめる。
そもそもビタミンDは、レバーや魚、卵、牛乳、きのこ類など多くの食物に含まれ、また太陽光を浴びると皮膚でも合成している。ごくまれに、自分でビタミンDを作れない体質をもつ人もいるが、普通は日常的な食生活を送っていれば十分だという研究結果が、ニュージーランドのオークランド大学から発表されている。
http://www.nzherald.co.nz/health-wellbeing/news/article.cfm?c_id=1501238&objectid=11138676
ときどきビタミンDのサプリメントで「普段の食生活では十分に補いにくいビタミンの一つなので、積極的に補いたい」といった広告が見受けられるが、この表現には無理がある。さらに、アトピー性皮膚炎への効果を積極的にうたうビタミンDのサプリメントもある。しかし、副作用のことを考えると、自らの判断でビタミンDを大量に服用したりや子どもに飲ませたりするのではなく、まずは専門医に相談することをおすすめしたい。
(文=編集部)