日本は多剤耐性菌大国
日本は国民皆保険の国であり、医療費の自己負担は少ない。だから病院にかかったら、薬をもらったほうが得だと思っている人が少なくない。薬を処方してくれないと「ケチ」と医師をののしる患者もいる。
ただでさえ医師としては薬を処方しておいたほうがリスクは少ない。体力が弱っていると、さまざまな感染症にかかりやすいので、風邪の患者が気管支炎や中耳炎その他に二次感染している場合がある。ウイルス性の風邪なら不要な抗菌薬を処方しておけば、細菌感染症を見落として治療しなかったと言われる心配はない。それで患者も満足するのだから、二重にいい。2011年に行われたプライマリケア医、つまり総合的に診るかかりつけ医に対する調査では3割の医師がほぼすべての風邪の患者に抗菌薬を処方していた。
「念のためにお薬を出しておきましょう」
こういうヘタレの医師は、強い抗菌薬を処方して副作用が出るのを心配して、低濃度の抗菌薬を長期に処方する。細菌を殺すには足りない濃度の抗菌薬を長期用いるのが、最も耐性菌を産む方法なのに...。
感染症の専門医は十分量の抗菌薬を用いて、途中で患者の状態をチェックして、効きが悪ければ、他の抗菌薬に切り替えるし、充分効果が上がっていたらすぐやめる。そのために短めの日数分しか出さない。しかし、「3日後にもう一度来てください」と言われたのに、治ってきたと思ったら行かない患者は多い。行けば医師が観察して、もう数日の投与を必要と判断したかもしれないのに、行かずに耐性菌を育てている危険がある。
加えて、豚や牛、養殖魚などに抗生物質が多く使われていることも問題だ。家畜から排泄された抗生物質が、土壌や水などで耐性菌を育てている可能性も指摘されている。また日本を追うように、インドや中国も抗菌薬の乱用で、多剤耐性菌大国になりつつある。多剤耐性菌はその種類を増やしており、最近は特に多剤耐性結核などが問題となっている。
抗菌薬が本当に必要なときとは?
抗菌薬は適切に用いることが重要なのであって、むやみに怖がって使わないのも危険だ。「念のため...」という医師の処方は断っていいが、本当に必要で出された抗菌薬はきちんとのむことが大事。
たとえ風邪でも、抗菌薬の処方が適切な場合がある。たとえば細菌性の風邪の場合には抗菌薬を用いる。また高齢者、あるいは糖尿病やCOPDなどの持病がある場合には、肺炎を予防する意味で投与されることがある。
風邪だと思っても、実は風邪に似た症状をもたらす別の病気の場合もある。肺炎などになっている場合もある。風邪だと思っても、きちんと栄養と睡眠をとっているのに、4日経っても、よくなる気配がなければ、一度受診しておいたほうがいい。
(文=編集部)