神秘の健康食コカの葉
今年のワールドカップ決勝戦は、アルゼンチンとドイツが戦い、ドイツが1対0で勝った。欧州勢の戦術と南米勢の創造性の長きに渡る戦いはこれから先もまだまだ続きそうだ。
ストリートサッカー、フットサルが育んだ南米の卓越した選手たちがつむぎだす独創的なサッカー、ペレやマラドーナのようにボールを自在に操り、華麗かつ独創的なステップでディフェンスの頭上をや股間を抜き去る魔術的な攻撃。こうした個人技の攻撃を止めたのが欧州の戦術と統制の取れたディフェンスだ。この戦いこそが現代サッカーの歴史だともいえる。
しかし、戦術面では南米各国は積極的に欧州に学びつつあり、世界各国の一流どころのコーチのほぼ全員が欧州に来ている。国際的な選手の交流も今や当たり前のことだ。サッカーの世界も今や限りなくフラットになっている。こうした状況で未来のサッカーを考えると、そこに南米選手の卓越した身体能力が再び勝負の趨勢に大きく影響してくるのではないかという考え方がある。
ワールドカップ開催当時のことを少し振り返ってみると、キング・カズがブラジル時代を振り返りつつマテ茶をさわやかに飲んでみせていた。バラエティーでは、ガラナ飲料やブラジル原産のヤシ科の植物アサイーの効用が紹介された。しかし、南米の最強の健康食品「コカの葉」は決して話題に上がることはなかった。長年ボリビアに住み、独自の『コカの葉健康法』を研究する関邦彦・元神奈川大学教授は、南米の古代文明とその伝統的な食文化の中に壮健な選手のルーツを見る。
麻薬といえばもっともメジャーなのがヘロインなどのアヘン系薬物とコカインといえる。南米のボリビアやペルーなどアンデスの高地に産する耐寒性の樹木「エリスロキシロン・コカ」の葉にはコカインとして知られるある種のアルカロイドが含まれている。このアルカロイドの成分が医療用などに使用されるうちに、一部が不正に流通しコカ・ペイスト(coca paste)の形にされたうえ、塩酸コカインを製造する能力を持った密造所へと運ばれてコカインが製造されている。しかし、「コカの葉」とそれを原料として化学物質を使用して製造される「コカイン」とは、麻薬の被害や有害性が大きく違うことが理解されていない。原料が問題の根源ではなく、不法と知りながら悪知恵を使ってその原料から不法な有害な物質を造る勢力とそれを消費する愚かなエンドユーザーこそが問題だ。
●壮健な身体を作る理想的な食品
1975年にはハーバード大学の研究者たちが、コカ葉の栄養価は、落花生、小麦、トウモロコシなどの栄養価以上であることを明らかにし、無機塩、食物繊維、ビタミンが豊富で低カロリーであるため、世界で最も理想的な食品の1つと指摘した。さらに栄養価だけではなく、治療上の効能や薬としての効能性も判明している。
またフランスの海外科学技術研究機構とボリビアの研究所は、コカの葉には、酸素吸収の活発化と血液凝固の阻害、ブドウ糖の代謝を整える作用などから、糖尿病の治療、パーキンソン病の予防など、様々な利点が期待されると結論づけたのだ。
1990年代になってWHO(世界保健機関)が国連地域間犯罪司法研究所(UNICRI)と共同で、「コカインWHO-UNICRI」という計画を打ち出し、コカの葉のリスクとデメリットを解明しようとした。世界各国から45人の研究者を動員し調査期間は4年間、調査対象は5大陸19カ国に及という非常に大規模な調査プロジェクトだ。
調査報告は、コカ葉の伝統的な利用法が人間の健康にもたらす効用を強調し、その治療上の効能に関する新たな研究を積極的に提唱するものだった。しかし、国内のコカイン汚染に苦しむWHOの米国代表は、各国への資金援助の停止をちらつかせて恫喝し、この調査報告を葬り去ってしまったのは有名な話だ。
ボリビア史上初めての先住民出身の大統領であるエボ・モラレスは、「コカの葉」の栽培と「その咀嚼使用の国際的合法化」を主張し、伝統的な食品であるコカの葉の有用性を訴え続け、"zero cocaine but not zero coca"(コカインはゼロに、ただしコカ葉はゼロにしない)という政策を打ち出している。