集団接種体制の構築に向けての提案
私が子供の頃はワクチンの集団接種は当たり前のことで、学校でもいっぱいワクチンを打った記憶があります。当時は保健所にも集団接種のノウハウを知った人がいっぱいいたわけですが、いつからか集団接種は行なわれなくなり、今ではどうやって集団接種をしていたか知っている保健所職員もまったくいなくなってしまったようです。
コロナワクチンは国民全員接種を目指してきたわけですが、そうなると会場設定もスタッフの必要数も相当なことになると思います。それではほかのワクチンでそのようなことがかつてあったのでしょうか。例えばインフルエンザワクチンの接種率はどのくらいなのだろうかと調べてみたら、法定接種でもなんとちょうど50%ぐらいなのです。英米の接種率が60-70%と高く、接種率でトップの韓国ではなんと90%にも届かんとする接種率です。なお、法定接種というのは日本では主に高齢者を対象とした接種であり、一般の方に対する任意接種数はこの数字には含まれていません。毎年のインフルエンザワクチンの生産量が2500万回分であることから推察すると国民全体では高々20-25%の接種率ということのようです。
ところで日本におけるインフルエンザワクチン接種の長い歴史を見ると、昭和50年代はなんと60-70%の接種率だったのが、ちょうど1990年代に極端に接種率が下がってそれからまた少しずつ回復して50%になっていたのです(いずれも法定接種)。どうしてこういうことになったのかというと、それまでの予防接種では接種針を再利用していたのですがこのために肝炎ウイルス感染などが発生することがわかって、1994年に集団接種自体が中止となりワクチン接種が激減したのです。ところがその結果として90年代には約800名の幼児がインフルエンザで死亡するという事態になり、個別接種に形を代えて徐々に復活を遂げてきたというわけです。
ワクチンで唯一地球上から姿を消したのは天然痘ウイルスです。これは全世界の人がワクチンを打ったからです。ワクチン接種が世界的に広がらなければ、ウイルスの撲滅はできないでいでしょう。しかし多くのウイルスは撲滅を目指してはいないはずで、ワクチンを打つ目的が違います(個々人の感染予防のため)。天然痘でどうしてそのようなことが成功したのか、今のコロナワクチンの接種状況(接種に反対する人が少なからず存在する)からは考えられませんが、人以外に感染の温床となる宿主動物がいなかったことも幸いしたかもしれません。
最後に迅速にコロナ接種を推し進められる打開策を一つ提唱します。それは選挙投票場で投票と同時に接種を行うというものです。一般的な投票場というのは、特に行列を作っているわけではないし、会場は体育館などで広さはそこそこあり、さらに好都合なことは本人確認も確実にできるからです。投票率が50%なら単純計算では全国民の50%の人の接種がたった1日でできてしまうかもしれません(もちろん接種を希望するひとだけですが)。その日だけは医師会員が仕事を休んで(もともと投票日は日曜日です)交代で全員が会場に張り付ていていたらいいし、誰かが強力に音頭を取ればできないことではないでしょう。
多くの人にワクチンを打ってもらうにはインセンティブは必要ですが、アメリカで実施した、お菓子を配るとかそういうのは必ずしも成功しなかったようです。インセンティブもそうですが、不精な人には選挙の時に一緒にというのは悪くはないやり方です(来夏はまた参議院選挙があります)。選挙とタイミングを合わせるのはなかなか難しいですが、必ずしも選挙投票時でなくても投票場を利用して似たような形式で実施することはこれからもありえる方法かもしれません。日本全国でできないのであれば、一部の地方自治体で採用してもいいかもしれません。
コロナワクチン接種に当たっての心構え
ことコロナに関しては、感染者の早期発見と治療(もしくは隔離)が原則だとすれば、(検査に関しては)どこかの国のように「いつでも誰でも何処でも無料で」できるようになれば理想です。これは検査だけでなくワクチンも同様です。
アメリカでは街中のいろいろな接種会場をふらっと訪れて接種を受けることが可能でした。接種会場は駅とか薬局とかショッピングモールとかにあったと思います。こういうやり方は自由度が高い反面、接種に関しては自己責任も負わされていて、ワクチンの種類とか接種回数とか各個人が自分で考えて受けなければならなかったはずです。それでも「いち早く多くの人が接種する」ことが最重要課題だとするなら、そのような方法を選択するのもありだったのではないでしょうか。つまり、緊急時の対応と定期のワクチン接種は考え方がガラッと変わってもいいと思います。とはいえ、実際のところはといえば、日本では難しいでしょう。ブースター接種がなかなか進まない理由のもう一つにはワクチンの供給量が十分ではないこともありそうで、それならばそのことを正直に国民に情報公開して説明するべきです。IT化が遅れていることも大きなネックとなっています。
なお、今回の投稿では触れませんでしたが、欧米では5歳から12歳の子供へのコロナワクチン接種が始まっています。社会全体の感染抑制のためには有効な手段と考える専門家も多いのですが、日本ではどうするかの議論すら行われていません。少なくとも学校や保育園などの集団生活の中でコロナ感染者もしくはその疑いがある子が発生した時にどう対処したらいいか(検査体制を含め)、学校や各施設に任せっぱなしにしておかないで、きちんと具体的な対処方法を文科省・厚労省なりがマニアルにまとめて公表すべきです。このことでそれぞれの施設が頭を悩ませているのです。早急な対応が望まれるところです。
(文=和田眞紀夫)
和田眞紀夫(わだ・まきお)
わだ内科クリニック院長
※医療バナンス学会発行「MRIC」2021年12月15日より転載(http://medg.jp/mt/)