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【検証 菅政権はなぜコロナに負けたのか➁】

国民の「反乱」に耳貸さなかった首相 五輪まっただ中の感染爆発

国民が起こした「反乱」

 人流の問題については、宣言やまんえん防止措置の長期化による「コロナ疲れ」や「宣言慣れ」が指摘されたが、それだけではない。ろくな説明もせずに、支離滅裂な行動を繰り返し、揚げ句の果てに五輪の政治利用を目論むなどもってのほかだと多くの国民が考えたからだ。国民は馬鹿ではない。民主主義と、五輪が掲げる世界平和に逆行する首相の身勝手な行動に無言の「反乱」を起こしたのだ。
 
 今回の五輪開催を「第2の敗戦」という見方がある。確かに為政者レベルではその科学性のなさ、危機管理能力のなさ、知的レベルの低さにおいて通底するかもしれないが、五輪という国家的行事に抵抗した国民の存在は戦前とは決定的に違う。菅首相は国民のメッセージに耳を澄まし、五輪中止、最低でも延期を決断すべきだった。
 
 ところが、菅首相は国民に耳を貸すどころか、8月2日の関係閣僚会議で、コロナ患者の入院基準を「重症患者や重症化リスクの特に高い方」に絞り、それ以外は自宅療養を原則とする方針に転換することを決めた。従来は軽症者や無症状者が自宅か宿泊療養、中等症以上が原則入院だったが、これをさらに制限するのが目的だ。

方針転換と医療崩壊の発生

 中等症は肺炎以上で、中等症Ⅰは激しい咳が出て息切れがあり、同Ⅱは酸素吸入が必要で人工呼吸器一歩手前の状態を差すが、Ⅰは入院対象から除外される恐れが出てきた。つまり、感染者が増加したから入院を絞ろうという安易な発想だ。これには専門家だけでなく、野党はもちろん与党の公明党からも反対や懸念が示され、自民党内からは「撤回」を求める声さえ上がった。
 
 菅首相は日本医師会などに「誰もが症状に応じて必要な医療を行うことができるように」するためと説明したが、実際は医療崩壊を見越して早々と白旗を揚げたようなものだ。都道府県はコロナ対策で、医療に不足が出た場合、都道府県は臨時の病院施設、いわゆる「野戦病院」を開設する法的義務がある。これを支援したり、自衛隊などを動員して自ら野戦病院の設置に動くのが政府の役目だが、菅首相は極めて消極的だった。
 
 その後の感染爆発で自宅療養中の感染者数は8月21日に2万6409人、入院・療養等調整中の感染者数は、同22日に1万4726人と、過去最多を記録。7月1日時点ではともに1000人程度で、入院や宿泊療養できずに苦しむ患者が万単位に上る深刻な状況が浮き彫りになった。テレビ局は、入院先が見つからず重症化した自宅療養者が訪問医の診療もむなしく死んでいく様子を連日、画面に映し出した。医療崩壊の現場と政府や東京都の無策ぶりが白日の下にさらされた。(続)
(文=荒木健次/ジャーナリスト)

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