よく眠れる香りではα波が多く出現
睡眠と健康の関係性がわかってくるにしたがって、快眠を得るための環境をどうすべきかといういわゆる睡眠環境学の研究も盛んに行われている。良い睡眠が得られるように寝室を工夫する場合、室内の照明をどうするか、温度や湿度はどうか、壁紙は何色がいいのか、どんな音楽があると良いのかなど、さまざまなアプローチが試みられている。
「私は睡眠環境学の中でも早くから睡眠と香り(ニオイ)の関係に注目していました。ある種の香りは寝つきに関して効果的があり、ノンレム睡眠に入っていく時間を短くする作用があります」と古賀教授。
嗅覚は人間の五感の中で唯一脳の表面にある大脳皮質を経由せずに直接、大脳辺縁系に直接刺激を伝えると考えられている。大脳辺縁系は情緒や記憶などと密接に関わる部分であり、香りは情緒に作用してリラックス感をもたらすという。
「私はどのような香りが脳に変化をもたらすかを調べています。実際には脳波を利用して、脳の活動が穏やかで心理的にリラックスしていること示すα波の量を測定しました。いくつかのエッセンシャルオイルの香りはα波の量を増加させ、中でも特にラベンダーの香りが最もα波を増やす作用があることがわかりました。つまり、ラベンダーの香りには脳の活動を円滑にして睡眠に誘う働きが強いということですね」
「コーヒーの香りにも注目すべきものがあります。コーヒーは睡眠に適さない飲み物だと思われています。確かに覚醒作用を持つカフェインを含んでいますから飲んでしまっては逆効果です。しかし、香りだけであれば脳をリラックスさせる効果があること判明しました。20代の女性10名を対象に6種類のコーヒー豆(ブラジルサントス、グアテマラ、ブルーマウンテン、モカマタリ、マンデリン、ハワイコナ)でα波がどの程度出現するかを比べた結果、グアテマラとブルーマウンテンの香りはα波の出現量が多いことが確認されています」と、ある種のコーヒーが意外に睡眠に効果のあるアイテムだとする。
「老人ホームなどの個室で快眠を得るためにどうしたらいいかが検討されるとき、多くはオーディオ&ビジュアル、つまり聴覚と視覚について考慮されますが、嗅覚からのアプローチはもっと進められてよいと思います」と主張する。
昼間に覚醒をすることが快眠への近道
睡眠時間が短く昼間の眠気に縛られる日本人に何か処方箋はあるのか?古賀教授は次のように話す。
「良質の睡眠を得るためには、効果的に入眠を促す環境だけでなく、昼にきちんと起きていること重要だと考えています。睡眠と香りの関係を解明しながら、どんな香りが日中にきちんと起きていることを助けるのかも研究しています」
ある程度わかっているのは適度に交感神経を刺激する「レモンなどの柑橘系の香りやメントール、カンファー(樟脳)、テルピノールの香りなども日中の覚醒を保つのに効果があるでしょう。今後、日中にしっかりと覚醒して仕事の効率を向上させ、その結果として夜間の良質な睡眠を手に入れるための香り商品が市場に出てくると予測しています」