Varinos株式会社を立ち上げた桜庭喜行氏と長井陽子氏
腸内フローラ(細菌叢)の存在は既によく知られているが、皮膚、口腔、腟内など身体にはさまざまなフローラがある。最近では子宮内フローラが注目され、その検査も可能になっている。
今年8月19日、第17回生殖バイオロジー東京シンポジウムで、京野アートクリニック理事長の京野廣一医師は、「子宮内フローラ、着床にどこまで関与?」と題して講演。
次世代シーケンサー(NGS)の登場で、最近の感染症学が大きな転換期を迎えているとし、「分離培養が困難な菌、染色できない菌のDNA配列を短期間で調べる解析できるようになった。かつては無菌と考えられていた子宮内にも感度の高いNGSによって微量に存在する菌も検出可能となり、 子宮内にも善玉菌が存在し、細菌叢と着床に関する多くの研究が出てきている」と説明した。
つまり、子宮内にもフローラがあり、そのバランスによってさまざまな健康への影響が予測され始めているということだ。
NGS(Next Generation Sequencer)とは、遺伝子の塩基配列を高速に読み出せる装置で、ゲノム(遺伝情報)を非常に早い時間と圧倒的な低コストで解析することを可能にしている。このNGSの技術の進展は、最大手の米Illumina社によるところが大きい。十数年前に何十億ドルもの費用と10年という時間が必要だったヒト全ゲノムの解析は、最近では十数時間・1000ドル程度で可能になっている。
子宮内フローラの存在が確認されたのはわずか数年前
こうした遺伝子解析技術の急速な進展の中で、子宮内フローラの実態も解明されてきた。
2008年、米国で大規模な国家プロジェクトHuman Microbiome Project (HMP)が始まった。健常者242人の鼻腔、口腔、皮膚、糞便、腟内3カ所から集められた4,788サンプルの遺伝子解析が行われた。約100名の女性健常者の腟内細菌叢では、他の部位と比べて菌の多様性が低く、ラクトバチルス(Lactobacillus)という種類の常在菌が支配的であるという特徴があった。この大規模な研究によって、これまで知られていなかった、ラクトバチルス以外の様々な常在菌の情報が集められた。(https://www.nature.com/articles/nature11234)
2015年には米国ラドガース大学の研究者らが、NGSを用いて子宮内にもラクトバチルスが存在することを発見し、ラクトバチルスが着床時の免疫に影響を与える可能性を指摘している。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26547201)
2016年には子宮内フローラ検査の実現に関わる重要な研究が発表された。
スペインと米国の研究者らが、妊娠成功群と妊娠不成功群で子宮内のラクトバチルスの量を調べたところ、妊娠不成功群ではラクトバチルスが少ない傾向にあることを発見した。ラクトバチルスが90%以上を占めるグループ(支配群)と90%未満のグループ(被支配群)で、各群の体外受精後の臨床妊娠成績を調べたところ、支配群では妊娠成功率が70.6%、生児獲得は58.8%であったのに対し、非支配群では、妊娠成功率が33.3%,生児獲得率は6.7%と低く、子宮内細フローラが、着床のみならず妊娠継続にも寄与する可能性が指摘されたのだ。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27717732)