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京大がiPS細胞によるパーキンソン病の再生医療の治験をスタート

京大がiPS細胞によるパーキンソン病の再生医療の治験をスタートの画像1

iPS細胞によるパーキンソン病患者の再生医療の治験開始(depositphotos.com)

 iPS細胞の衝撃の発表から10年。iPS再生医療の未来を揺るがすようなニュースが届いた。

 7月29日、京都大学iPS細胞研究所の高橋淳教授らは、iPS細胞(人工多能性幹細胞)から作った神経細胞をパーキンソン病患者へ移植する再生医療の治験を始めると発表。近々、治験の参加患者を募集するという(京都新聞:2018年7月29日) 。

 iPS細胞を活用する再生医療は、理化学研究所が目の重篤疾患である加齢黄斑変性の患者の臨床研究を進めているが、公的医療保険の適用をめざして実施される治験は国内初・世界初のトライアルだ。

パーキンソン病の国内の患者は10万人以上

 パーキンソン病は、脳幹に属する「中脳の黒質」と「大脳の線条体」に異常を来して発症する。黒質に異常が起きると、神経細胞の中に「αシヌクレイン」というタンパク質が凝集して溜まり、正常な神経細胞が減少するため、神経伝達物質のドーパミンの量が低下し、黒質から線条体への情報伝達経路が阻害される。

 その結果、姿勢の維持や運動の速度調節がコントロールできにくくなるので、震え、強張り、動作や姿勢の障害につながる。便秘、頻尿、発汗、易疲労性(疲れやすい)、嗅覚の低下、起立性低血圧(立ちくらみ)、うつ、アパシー(意欲の低下)などの非運動症状を伴う難病だ。国内の患者は10万人以上とされる。

 今回の治験は、拒絶反応を起こしにくいタイプのドナーの細胞からあらかじめ作製して備蓄したiPS細胞によってドーパミン神経細胞を作り、頭蓋骨に直径約12ミリの穴を開けて脳に移植する。あまり進行していない患者数人を対象に数年間にわたり、安全性と有効性を確認する。
 
 この手法が確立されれば、新たな治療の選択肢となり、症状が改善させ、患者のQOL(生活の質)を高める効果が期待できる。だが、今回の移植は、体を動かしにくい患者の運動障害の緩和が主な目的のため、認知症などへの有効性は小さい。したがって、ドーパミンの補充などの薬物療法を併用しなければならない。

 また、iPS細胞から作った神経は本来ドーパミン神経があった黒質とは違う局部に移植するため、ドーパミンの過剰分泌によって不随意運動などの副作用を起こすリスクもある。

 患者や家族らでつくる「全国パーキンソン病友の会」は、2013年から京大iPS細胞研究所に計500万円を寄付してきた。患者だった妻を10年前に亡くした代表理事の長谷川更正さんは、iPS細胞に対する期待は大きいので、治験が成功し、患者に推奨できる治療法になってほしいと期待を込めている。
 
 ちなみに、京大はiPS細胞を使って見つけた治療薬候補を活用し、筋肉の中に骨ができる希少難病「進行性骨化性線維異形成症(FOP)」の患者への治験も実施している。

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