治療中の「日本橋インプラントセンター」玉木仁所長
歯周病や虫歯など、さまざまな原因で失われる危険にさらされている歯。不幸にして失われてしまった場合、①入れ歯、②ブリッジ(橋渡しの歯)、③インプラントの選択肢から治療を選ぶことになる。
だが③のインプラントについては、歯科医のサイトを見ても書かれていることがバラバラで、クリニックによって治療費に大きな差があり、施術後のトラブルがしばしば新聞や週刊誌を賑わしている。
実態がよくわからない上に悪いイメージの先行しているインプラントについて、インプラント埋入1万本以上の実績と良好な20年経過症例を数多く持つ「日本橋インプラントセンター」所長の玉木仁氏にお話をうかがった。
最近話題の『1万本を治療した名医が実証した長生きインプラント』(ユサブル)の著者でもある。
血液検査なしの「外科処置」が横行する歯科医の世界
インプラントはクリニックによって値段の差が大きく、各歯科医のサイトによって書かれた内容に違いがあるが、これはなぜなのだろうか。
「インプラントが自由診療だからです。歯科医が治療費を決められるので、なかには価格を下げて薄利多売で顧客をとろうとする歯科医がいるんです。東京のある歯科医が十数年前に『価格破壊』を始めたのですが、価格を下げるためには、どこかで手を抜かなければならない。それがインプラント治療のトラブルの原因になっていると思います」
歯科医師免許を持っていれば誰でもインプラント治療を行えるが、知識と経験が不足している歯科医が多いのも問題だと玉木先生は言う。
『1万本を治療した名医が実証した長生きインプラント』(ユサブル刊)
「ブリッジは健康な歯を削らなくてはならず、部分入れ歯は歯にバネをつけるのでバネをかけた歯に圧力がかかる。どちらも将来的には、健康な歯を失う可能性があります。そうしたリスクのないインプラントは、本来は素晴らしい治療法なんです。ところが、インプラントを通常の歯の治療の延長線だと思っている歯科医がいる。インプラントは外科処置なんです。でも残念ながら、外科手術をするのに血液検査すらしない歯科医が非常に多いのが実情です。巷の歯科医院ではほとんど行っていません」
胃や心臓の手術をする際に、血液検査をしない外科医は、日本ではあり得ない。ところがインプラントでは、血液検査なしの施術が横行しているという。近年、口腔インプラント学会がガイドラインを作ったが、血液検査については「推奨」されるにとどまっている。
「血液検査の結果は、感染症の予防はもちろんですが、施術後の経過にも大きく影響します。たとえば糖尿病の患者さんは血が止まりにくい上に傷の治りが悪いのですが、自覚症状が少ないので検査結果を見るまで気がつかない患者さんも多いんです」