インスリン抵抗性を下げて糖尿病を改善
禹教授はノビレチンの作用について、さまざまな研究を行っている。最初に注目したのは、動物における糖尿病の改善作用。ノビレチンに血糖値を下げる効果があることは以前から知られていたが、その仕組みは不明だった。禹教授らはそれを解明したのだ。
「糖尿病のモデルマウスを使った実験で、ノビレチンの投与によって、血糖値が3分の1ほど下がることを確認しました。そして、マウスの脂肪細胞や筋肉、肝臓などを調べた結果、脂肪組織ではインスリンの働きを阻害する因子の活性が下がり、逆にインスリンの感受性を高めるホルモンのアディポネクチンの量が大きく増えることを発見しました」
ほかにも、細胞が糖を取り込むときに細胞膜で働くタンパク質が増加したり、肝臓で糖を作り出す酵素の遺伝子の活動量が低下したりすることが判明したという。
こうしたさまざまな作用により、ノビレチンは動物における血糖値を下げることが明らかになった。後に米国研究グループによって、ヒトの試験でも、血糖値低下作用が認められている。
そのほかにも禹教授の研究で、ノビレチンにメラニン色素の生成を抑制する(いわゆる美白効果)、シークヮーサー由来のノビレチンとタンゲレチン(フラボノイドの一種)が「かゆみ」を抑制するなどの効果も明らかになったという。
また、ノビレチンの効果として、脳に及ぼす作用も注目だ。大泉康氏(東北大学名誉教授、東北福祉大学特任教授)らの研究では、ノビレチンの投与で記憶障害マウス(認知症のモデル)の記憶機能が改善した。
認知症の中で最も多いとされるアルツハイマー病は「アミロイドβ」というタンパク質の脳への沈着が原因とされるが、ノビレチンにはアミロイドβの沈着を減らすという。また、すでに記憶障害が進行している場合も、改善させる働きがあると示唆されている。
さらに最近の研究では、「排尿障害の改善」や「体内時計の調節」といったユニークな作用も報告されている。次回以降、そうした最新研究について紹介しよう。
(取材・文=山本太郎)
禹済泰(ウ・ゼテ)
中部大学応用生物学部教授(琉球大学客員教授も兼任)、株式会社沖縄リサーチセンター代表取締役社長。1992年、東京農工大学・博士(農学)、2009年、東京医科大学(医学博士)、東京工業大学生命理工学部助手、米国ノースウェスタン大学医学部客員助教授を経て現職。