手術の最中に目を閉じて手先の感覚に集中するニノに激しく共感
さて、ドラマの中身です。インパクトファクター・理事長選、追い詰められた高階。なぜ治験コーディネーターが患者を連れてきちゃったのかはさておき、高階の余裕のない感じは良く伝わってきましたね。高階と渡海の間で成長する世良…と思っていましたが、今回は佐伯と西崎の間で窮地に立ち、そして渡海との関わりで成長を見せる高階が見ものでした。
実際、医療は日進月歩。研究・データを分析することが医療の進歩につながっています。ドラマでは極論のように描写されていますが、研究・論文発表は命を救うこととも直結しているのです。そして日々、治療法がアップデートされていくのです。
でも、新しい手技や治療法には成功も失敗も数値によるデータがありませんから、「でもこの治療法、データ無いよね?」なんていう反論が常に出てくるのです。ついでに書くと、データ発表は早い者勝ちでもありますので、結果が出るまではひそひそと研究を進めていくのです。
そしてついにスナイプオペが成功しました!しかも同時に2件のスナイプオペ!
高階の真面目さとニノ(二宮和也)の余裕な感じが良いチームになっていて、思わず吹き出してしまいました。今回は、まったくタイプの違う二人も、医師としては目指すところは同じなのかも?と思わせてくれる雰囲気を感じました。高階の「スナイプ挿入できます」に対してのニノの「うるさいな」×2のセリフ、すごく自然で、緊張感の中にも心通わせた感がうまく出ていました!ニノの抜けた感じと威嚇する感じの使い分け、これには毎回すっきりさせてもらっています。
実際、オペ室でキャラクターの違う医師がともに施術をしていると、色々な会話が生まれます。私の先輩で、オペがうまく終わると「マーベラス」と必ず言う先輩がいました。ブラックペアンでクランプすることと同じ意味合いでしょう(笑)。
ニノがスナイプ手技中に目を閉じて心臓の拍動を手で感じ、手先の感覚をもとに僧帽弁に刺入しました。ただただかっこいいシーンでしたが、うまい演出だなあ~と感心してみてしまいました。そう、普段は考えていないけれど、医師ならだれでもあのような経験があるのでは?
われわれが血液・髄液を採るために針を刺す、カテーテルをする、骨を固定するのにネイルを骨に通す、などなどのあらゆる手技を行う時に、手先の感覚や抜け感などがとても大切で、その感覚を頼りに手技を行っています。時に、手技の最中に目を閉じて手先の感覚に集中することも、本当にあります。ニノはずっとオペ室で怒鳴り散らしていましたが、あの瞬間、医師のピュアな部分を見た様なシーンでした。ちなみに私は、ニノのオペを開始する瞬間のソフトなしゃべりだしが、セリフっぽく無くて、とても気に入っています。
「スナイプ手術、やっていますか?」現実の病院に問い合わせ
そして致死性不整脈。不整脈は問題のないものから今回のような命に関わるものまで色々なものがあります。要するに心臓のリズム異常です。日常的に基礎疾患のない人でも、運動、精神的ストレス、飲酒などがきっかけでも不整脈は出ることがあります。不整脈を感じると人は不安になるので、治療の必要のない不整脈には、抗不安薬が処方されることも少なくありません。
リズムが乱れて心臓の中の血をしっかり押し出せなくなってしまうものが、問題のある不整脈です。基礎疾患の有無にかかわらず、放っておくと短時間で死に至る危険性の高い不整脈を致死性不整脈と言い、治療の対象になるのです。ペースメーカーや植え込み型除細動器(ICD)を入れたりするあれです。
瞬時にすべてを判断し治療していく医師たち、尊敬します。
ちなみに、大好きな先輩は心筋生検シーンで少し登場!先輩の病院には実際に「スナイプ手術、やっていますか?」という問い合わせが入ったそうです!恐るべし、ドラマの影響力!
来週はニノに動きがありそうですね。病院の旧館、心臓に残されたペアン、着々と集まってくるお金……、全てはどのようにつながるのでしょう。
(文=井上留美子)
井上留美子(いのうえ・るみこ)
松浦整形外科院長
東京生まれの東京育ち。医科大学卒業・研修後、整形外科学教室入局。長男出産をきっかけに父のクリニックの院長となる。自他共に認める医療ドラマフリーク。日本整形外科学会整形外科認定医、リハビリ認定医、リウマチ認定医、スポーツ認定医。
自分の健康法は笑うこと。現在、予防医学としてのヨガに着目し、ヨガインストラクターに整形外科理論などを教えている。シニアヨガプログラムも作成し、自身のクリニックと都内整形外科クリニックでヨガ教室を開いてい。現在は二人の子育てをしながら時間を見つけては医療ドラマウォッチャーに変身し、joynet(ジョイネット)などでも多彩なコラムを執筆する。