14~15カ月?で3階級下への無謀な減量
もう一度、フィクション(漫画上)の世界に話を戻そう。力石のあまりにも無謀な減量挑戦に関する記者同士の会話として、こんなセリフが囁かれている。
「ふだんでもちょっと気を許すとたちまちウェルター級のウェイトにはね上がるっていう体格なのに/その三階級も下のバンタム級に減らそうっていうんだからただごとじゃないよ」
その3階級減の期間も、物語上の時制を丹念に追跡検証したファン投稿の一説によれば、14~15カ月となる(確証はない)。ちなみに力石徹は、高森朝雄(梶原一騎)氏の原作上では、主人公・矢吹丈がボクシングに目覚めるきっかけ役程度の設定だったという。
それが「宿命のライバル」として大幅に変更され、あそこまで大きな存在と化し、死してなお慕われるキャラクターになろうとは……。ちばてつや氏自身がその初登場シーンを誤算回想し、「力石の姿・形を大きく書き過ぎた」と語っているのが象徴的だ。
現実で起きたバンタム級世界戦での減量失敗
ジョーとの宿命対決で力石は、直接的にはテンプル(こめかみ)への一撃とリングロープでの後頭部強打(脳内出血)で早逝。だが、過度な減量と極度な栄養失調状態が、死に導く要因であったことは想像に難くない。
死から48年……。折しも3月1日のWBC世界バンタム級タイトルマッチでは、前王者・山中慎介がルイス・ネリとの再戦で2回TKO負けを喫した。
対戦相手のルイス・ネリは、1階級上のスーパーバンタム級をも上回る有り様で、前日計量に失敗。1時間45分後の再計量でもリミットを1.3kg超過(失格)しての試合だったため、ルイス・ネリが勝っても王座は「空位」となった。
今年も力石徹の想い出がささやかれるこの季節――。現実のタイトルマッチで起きた、それこそマンガのような苦笑顛末劇。やはり昭和は遠くなりにけり……なのかもしれない。
(文=編集部)