<忖度>が働いた?不適切データをもとに法案
1月29日の衆院予算委員会では、安倍晋三首相が「裁量労働制の労働者の労働時間は一般的な労働者より短い」というデータもあると答弁したが、このデータが極めて不適切な数字だったことが問題になった。
立憲民主党の長妻昭代表代行の指摘によると、安部首相の論拠となった厚生労働省の2013年の調査「労働時間等総合実態調査」の中には、233もの異常な数値があるという。
1日の労働時間が24時間を超えていたり、同じ人の1日の労働時間が1週間の労働時間より長いといったおかしな数値が混じっているというから、調査結果そのものの信頼性が疑われる。
安部首相は、そのデータに基づいた理由を「厚労省から上がってきた資料をそのまま使用した」と弁解しているが、それこそ「首相の押し進めたい裁量労働制をよく見せたい」という厚労省職員の<忖度>が働いた結果だったとのではと勘ぐりたくもなる。
2月26日の衆院予算委員会では、野党の追求に苦笑いする安部首相に、希望の党の玉木雄一郎代表が「そんなに馬鹿にして笑う話ですか。人が死んでいる話なんですよ」と詰め寄る一幕もあった。人が死んでいるとは、過労死のことを指しているのは言うまでもない。
安部首相は今国会を「働き方改革国会」と銘打ち、「裁量労働制」の対象拡大などを織り込んだ8法案の国会提出を目指していた。
「裁量労働制」によって、いくら働かせても残業代をつけなくてもいいのであれば、人手不足でも社員を増やさず、ひとりの社員にどんどん仕事を押し付ければ、確かに一時的には会社の側は潤うだろう。
しかし、その行き着く果てが「社員の過労」や「職場の疲弊」であるなら、そんな制度をもてはやす日本全体の労働環境にも、明るい未来は期待できそうにない。
実際には、取り決めた「みなし労働時間」よりも、遥かに長く働かせているケースが後を立たないという裁量労働制――。
結果的に今国会での対象拡大は見送られたが、形を変えて同じような法案がまた提出される可能性は十分にある。また、高収入の一部専門職を対象に労働時間の規制を外す「高度プロフェッショナル制度」については、これまで通り成立を目指すともしている。
不透明なこれらの制度で、本当に得をしているのは誰なのか、今後も私たちは注視し、見極めていかなければならない。その理由は、ただひとつ。働く人の健康と命を守るためである。
(文=編集部)