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子宮頸がんワクチンは安全?厚労省のパンフレット改定 「感情」ではなく「科学」で判断を

ある時を境に「リスク報道」ばかりに……

 

 津田氏らは、2011年1月〜2015年12月まで、大手全国紙5紙(読売、朝日、毎日、日経、産経)に掲載された子宮頸がんワクチンに関する記事をすべて抽出。それを2人の医師が別々に読み「ポジティブ」「中立」「ネガティブ」で評価した。また、有効性や有害現象に関するキーワードや、WHOなど専門家機構からの提言が含まれている記事を分類した。

 その結果、当初はどの媒体もワクチンの予防効果を「ポジティブ」に報道していた。しかし2013年3月を境に、ポジティブと評価された報道がほとんどなくなり、「ネガティブ」もしくは「中立」の記事ばかりになる。がん予防の効果についての報道が減り、副作用などのリスクを取り上げる記事が圧倒的多数を占めるようになったという。

 「潮目」を変えたのは、ある全国紙が大きく報じた東京都内の女子中学生の記事だと、津田氏は考えている。ワクチン接種後に、腕や脚、背中が腫れて痛み入院。後に通学できるようになったが、割り算ができないなどの症状が残っているというものだ。

 この記事を契機に副作用を問題視する記事が次々と報道され、副作用を訴える声は、全国各地に広がっていくことになる。

 「ワクチン接種の有効性を証明するエビデンス(証拠)は積みあがっており、WHOからも接種を再開すべきだと提言がでています。これはまったくといっていいくらい報道されていない」。2016年12月6日付けBuzzFeed News「『救えるはずの患者を救えない』 子宮頸がんワクチン副作用『問題』はなぜ起きた?」で、津田氏はこう警鐘を鳴らしている。

このままでは10万の子宮が失われる

 

 日本では一時約70%に上っていた子宮頚がんワクチンの接種率が、現在は約1%未満まで低下している。その陰で、年間2万7000〜2万8000人が子宮頸がんと診断され、約3000人が亡くなっている。子宮頸がんワクチンの摂取率の著しい低下は、本来救えるはずだった命が救えないことも意味する。

 現在ワクチンによる副作用を訴え、苦しむ患者を救済していくことは必要だ。しかし子宮頸がんワクチンの接種を推し進めても、その患者たちを切り捨てることにはならない。公共の福祉に大きく影響する問題は「感情」ではなく「科学」をもって扱われるべきだという、当たり前のことにすぎない。

 村中璃子氏は自身のWebサイトで、ジョン・マドックス賞受賞スピーチ全文「10万個の子宮」を公開。この中で氏は、日本における国家賠償請求訴訟が終わるまでの10年間で、子宮頸がんによって10万個の子宮が失われるかもしれない現状を訴えている。

 子宮頸がんワクチンの有効性を持って、親や子ども達の不安を取り除き、正しい理解を促すための取り組みが急がれる。その意味でも公平な報道は必須だ。

 当サイトでは、シリーズ「中村祐輔のシカゴ便り」第18回で「子宮頸がんワクチン報道でわかる<メディアの愚> 欠如する「公共の福祉」の観点」と題して、子宮頸がんワクチンの有効性について言及した。

 しかし、村中璃子氏が「ジョン・マドックス賞」を受賞したことについては、今回、初めて報じることになる。

 前出の津田健司氏の指摘を、当サイトも含めすべてのメディアが重く受け止めなければいけない。今回の村中氏の受賞が大手メディアに取り上げられ始めたことが、新たな議論を進めるためのきっかけになることを期待したい。
(文=編集部)

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