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【シリーズ「あの人はなぜ死に急いだのか?スターたちの死の真相!」第13回】

29歳で夭逝した村山聖 羽生善治に6勝7敗の成績を残した天才棋士

ネフローゼ症候群と20年以上も闘病!進行性腎臓がんに奪われた棋士人生!

 村山の余命を奪った進行性膀胱がん。膀胱がん(Bladder cancer)は、膀胱に発症する上皮性悪性腫瘍だ。尿路上皮が、がん化して発症する。その90%以上は、尿路上皮がんだが、まれに扁平上皮がんや腺がんもある。画像診断やTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術) による確定診断によって「筋層非浸潤性がん」「筋層浸潤性がん」「転移性がん」に分かれる。

 筋層非浸潤性がんは、膀胱筋層に浸潤していないがんで、「表在性がん」と「上皮内がん」がある。表在性がんは、カリフラワーやイソギンチャクのように表面がぶつぶつと隆起し、膀胱の内腔に向かって突出していることから「乳頭状がん」と呼ばれる。

 表在性がんは、浸潤しないが、放置すれば、進行して浸潤がんや転移がんに進行する場合がある。上皮内がんは、膀胱の内腔に突出せず、粘膜(上皮)だけががん化した状態のがんだ。

 一方、筋層浸潤性がんは、膀胱の筋層に浸潤したがんで、膀胱壁を貫き、壁外の組織へ浸潤したり、リンパ節や肺や骨に転移を招くリスクがある。また、転移性がんは、原発巣の膀胱がんが、リンパ節、肺、骨、肝臓などに転移したがんだ。

 膀胱がんを発症すると、目視できる赤色や茶色の血尿が出る。血尿は、最も頻度の高い膀胱がんの症状だが、痛みを伴わない。頻尿、尿意の切迫感、排尿時痛、下腹部の痛みなどが現われやすい。

 村山の死因は、進行性腎臓がんだが、幼少時にネフローゼ症候群を発症し、20年以上の闘病と治療が続いている。ネフローゼ症候群は、尿中に大量のタンパク質(主としてアルブミン)が放出し、血液中のタンパク質が減少する低タンパク血症に陥る。その結果、 浮腫(むくみ)をはじめ、胸部や腹部に水がたまる胸水や腹水、排尿障害尿、腎機能障害、血圧低下、血栓症、血液中のコレステロール値の上昇などが現れる。

 治療は、入院安静、浮腫に対する水分・塩分、タンパク質の摂取量制限がが鉄則だ。だが、村山は、重体を押してでも対局に臨むなどの無謀な行動も見られたことから、ネフローゼ症候群の慢性化は避けられず、難治性の進行性腎臓がんに至ったと推察できる(参考:国立がん研究センターがん情報センター)。
 

僕は死んでも、もう一度人間に生まれたい

 ネフローゼ症候群による浮腫のある顔貌から「怪童丸」と揶揄される。一旦、対局者に向かうや鬼気迫る勝負師の風貌に豹変する。ライバル棋士たちに盤外でも闘争心を剥き出しにする。だが、並み居る後輩らには、兄貴のような親愛の眼差しも忘れない。

 「さーっと去って行って、つむじ風のように、彼はあの世へ行ってしまったんじゃないか」父・村山伸一さん。

 「自分の命というものに対して、自分がいつ、どうなるか分からないというのを、そういう思いを持ちながら生きていた」母・村山トミコさん

 「じっと耐えてるというのは、人に見せないし、知られたくないし、分かってほしくもないという村山流の頑固さとか一途さとか、一徹さがあった。静かに耐えている時間が長いから、動いたときにすごく色が鮮明なくらい、はっきりした目的を持っていた」師匠・森信雄(七段)
 
 「中盤戦とか終盤戦とか、終わりに近い場面のときに、常識では考えられないような発想の一手を思いつくことができる人だった」羽生善治(棋聖)

 12月、羽生棋聖は、7つの永世称号を制覇する「永世7冠」を史上初めて達成。「永世七冠」とは、プロ棋士の8つのタイトル戦(竜王戦・名人戦・叡王戦・王位戦・王座戦・棋王戦・王将戦・棋聖戦)のうち、永世称号のない叡王戦を除く7つのタイトル戦で規定回数以上の勝ち数を残した棋士に授与される称号だ。

「西の村山、東の羽生」「奇襲の村山、知略の羽生」

 没後19年。「西の村山、東の羽生」「奇襲の村山、知略の羽生」と恐れらた。天与の鬼才・村山なら羽生永世とタイトルを奪い合い、分け合っているかもしれない。稀有稀代の熱戦対局が将棋史を色鮮やかな錦絵のように塗り替えたに違いない。

 「人間は悲しみ、苦しむために生まれた。それが人間の宿命であり、幸せだ。僕は死んでも、もう一度人間に生まれたい」村山聖

 「神様のする事は、僕には予測出来ない事だらけだ。願う事は、これから僕の思い描いた絵の通りに現実が進んでいく事だ」村山聖

 利に勝って理に負ける。棋士の数だけ人生がある。無位無冠の村山がひと駒に賭けた棋士人生も、また永世に値する。
(文=佐藤博)

佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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