運動は「脳の海馬」以外にも絶大な効果が
海馬の萎縮を食い止めるものとして「運動」が近年注目されている。運動を行うことで、海馬そのものの萎縮を食い止めれば、記憶力や痴呆の防止につながるからだ。
そのことを踏まえて冒頭の研究を行ったところ、同じ運動でも「ダンス」がバランス能力を向上させたという。つまり、ダンスを行うことで、海馬の萎縮を食い止めることが可能だということが今回の研究で実証されたことになる。
論文の著者は、「ダンスの振り付けを覚えることが脳の活性化を担ったのではないか」とコメントしているのも興味深い。
このように運動(ダンス)は脳や身体機能の向上だけでなく、他にも有効なことがある。たとえば「運動療法」は「痛み」、特に「慢性疼痛」に対して有効なことは専門家の中では常識になっている。
世界疼痛学会のガイドラインでは、運動療法が「エビデンスでグレードA(効果が期待できる)」に推奨されており、運動の重要性がしっかりと明記されている。
逆に「運動不足(Physical Inability)」は多くの慢性疾患を生み出す。2017年に発表されたある論文によると、少なくとも35個の慢性疾患が運動不足により生じるという衝撃的な結果が報告されている。
その35個の中には「腰痛」「2型糖尿病」「肥満」「骨粗鬆症」「心不全」「脳卒中」「うつ病」「乳がん」「動脈硬化」などが含まれる。一見、運動不足と関係ない病気も含まれているが、これらは間違いなく、運動不足が一つの原因となっているのだ。
「運動は薬だ(Exercise is Medicine )」。寿命が延びている現代社会では「健康に長生きすること」の重要性がますます増している。そのために運動が重要なキーワードになることは間違いなさそうである。
(文=三木貴弘)