地球温暖化の諸政策を反古にした反環境の罪は重い!
さらに困ったことがある。トランプ大統領は反環境主義者でもある。なぜ反環境にこだわるのか?
地球温暖化や大気汚染などの気候変動対策は、水資源の不足、農業生産の低下、洪水の危険性、呼吸器系疾患の発症などをもたらす地球規模の喫緊課題にも関わらず、米中ロなどの先進諸国の政治的な思惑が複雑に絡み合い、足並みが揃わず進捗は思わしくない。
トランプ大統領は、産業界の過保護や重工業の優遇策に偏向するあまり、気候変動対策に及び腰になり、学術界や環境関連産業、市民運動、マスコミなどへの圧力・統制を陰に陽に強化している。
しかも、3月28日には、オバマ前政権が2015年に推進した火力発電所からのCO2排出を規制するクリーン・パワー・プランなどの地球温暖化対策を全面的に見直す大統領令に署名。エネルギー生産に関するすべての環境規制や政策を反古にし、骨抜きにしただけでなく、自然エネルギーへの転換、省エネルギーの推進の機運に冷水を浴びせる愚挙を重ねている。
気候変動対策を無視・放置すればするほど、地球温暖化に伴ってデング熱、ジカ熱、黄熱などの感染症を媒介する蚊の生息域が拡大するリスクが高まる。たとえば、2017年3月22日現在、フロリダ州とテキサス州では、旅行による輸入感染症ではなく、現地に生息する蚊によるジカ熱の発症例が222例もある。
しかも、反環境の愚策による感染症は、米国内だけにとどまらず、世界中に飛び火し、とくにアジアやアフリカでは、デング熱ウイルスを媒介する蚊の繁殖や感染拡大が懸念される。気候変動対策は急務だ。
このように、トランポノミクスによる反移民、反ワクチン、反気候の愚策は、世界にさまざまな感染症を撒き散らすリスクが強く、世界のグローバル化に真っ向から逆行する暴挙としか言いようがない。では、日本はいかに対処するべきだろうか?
地球上の一切の排外主義に反対する。VPDなどの予防接種サービスの普及を徹底する。米国の顔色を窺うのではなく、気候変動対策に真摯に取り組む……。ゴロゴロしている時ではない。
トランプ大統領は、イスラム諸国の国民を拒んだり、メキシコ国境に壁を築くのではなく、感染症を撲滅するための盤石な壁を築く道を選ぶべきだ。
(文=編集部)
*参考文献/『from 911/USAレポート』第739回「トランプ政権の性格はどう変わったのか?」冷泉彰彦/「トランプ政権の政策が感染症に対して及ぼしうる懸念についての考察」高橋謙造 ほか