医師の「復職可」という診断書は就業の保障ではない
──医師から「復職可」と診断されても、再発して休職することは少なくないようです。休職を繰り返さないためのポイントはありますか?
そもそも、「病状が改善して復職可」という診断書は、目立つ症状がなくなったと言っているに過ぎず、患者がきちんと通勤して業務ストレスに耐え、再発なく就業を継続できるという保障ではありません。
「復職」とは、病気になったときと同じストレスに戻るということです。ですから、再発を防ぐためには、さまざまな工夫が必要です。
こういった工夫について、精神科や心療内科の医師が患者を指導できなければ、「復職可」という診断書に実質的な意味はなく、<復職可の診断書>→<復職>→<再発>を繰り返すことになります。
厚生労働省も、「復職可」の診断はあくまで復職のプロセスのスタートラインに過ぎないことを認めていて、実際には、その後に短時間の「試し出社」などが行われます。
休職を繰り返す要因のひとつに、患者自身が「再発をしやすい」ことを認識していないことが挙げられます。復職すると、焦って以前と同じように仕事をしようとする。周囲もそれを受け入れてしまうことが少なくありません。仕事の業務内容は、慎重に戻していくべきです。
ほかには、生活のリズムが乱れると再発を招きます。休職を繰り返す人のなかには、飲酒やゲーム、チャットなどによる夜更かしなどの生活習慣を改めることができない人がいます。
いずれにせよ大切なのは、患者自身が体調管理の努力をしていることをベースに、状態に応じた仕事の配分を周囲にも理解してもらうことです。
「患者自身の体調管理を行うための指示」「仕事の配分のペースアップについてのアドバイス」について、医師などのスタッフが今後、さらに有効な役割を果たすことができるようになれば、うつ病からの復職も円滑に進むようになるでしょう。
(取材・文=里中高志)
秋山剛(あきやま・つよし)
NTT東日本関東病院精神神経科部長。うつ病リワーク研究会世話人。東京大学医学部卒業。同大学医学部附属病院分院神経科を経て現職。東京大学精神科非常勤講師などを兼任。専門はうつ病の人の復職支援など。監修書に『うつ病リワークプログラムのはじめかた』(弘文堂)、『うつ病の人の職場復帰を成功させる本』(講談社)などがある。