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【シリーズ「DNA鑑定秘話」第35回】

日航ジャンボ機墜落事故での犠牲者の身元確認はどのように進められたのか?

犠牲者らの身元確認はどのように進められたのか?

 事故が発生した当時は、DNA鑑定の技術が普及していなかった。したがって、犠牲者の個人識別は、遺族などから提供された生前の情報、たとえば、血液型・指紋・毛髪・写真・足紋なども身元確認に役立てられ、さらに主として歯科治療の所見が確認できる診療録(歯科カルテ)の治療履歴やレントゲン写真に基づいて行われた。

 人の歯は上下左右合わせて32本ある。歯はう蝕(虫歯)の罹患率が高いため、治療経験のない人は少ない。歯に金属を被せたり、詰めものをしたり、義歯を入れているなど、何らかの処置の形跡が残っている。しかも歯科医院は、診療録(歯科カルテ)やレントゲン写真を最終治療から5年間の保存を義務づけられている。この歯の所見の唯一性こそが身元確認の信憑性を裏づける根拠となっている。

 法医学者、法歯学者、歯科医師などによる検視班の身元確認は、事故発生2日後の8月14日から12月18日までの127日間にわたって昼夜を徹して行われた。

 検視総数2065体のうち、688体518名の身元を確認。検視の結果、五体すべてが残存していた遺体は177体、五体の一部が離断した遺体のうち、部位が特定できた遺体は680体、部位不明の骨肉片は893体。事故の甚大さを物語る悲惨な数字ばかりだ。

 12月、群馬県前橋市の群馬県民会館で合同慰霊祭が執り行われた。最終的に確認できなかった遺体片は、火葬後、墜落現場に近い上野村の「慰霊の園」へ納骨・埋葬されている。

 あまりにも衝撃的な大事故のためか、31年の歳月を重ねてもなお様々な議論、仮説、憶測が交錯する日航ジャンボ機墜落事故。いつまでも安全な空であってほしい。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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