理解が遅れる産後のうつ(shutterstock.com)
産後女性の支援、いわゆる「産後ケア」は喫緊の課題となっている。
7月14日、文京学院大学(東京都文京区)で、「今、求められる産後ケアの必要性」と題するセミナーが開催され、市川香織・同大学保健医療技術学部准教授(一般社団法人産前産後ケア推進協会代表)が講演を行った。
〝産後うつ〟の大きな原因としては、ホルモンの変化が知られている。通常の月経周期でもホルモンは変化するが、毎月のホルモン分泌量のピークを20階建てのビルの高さだとすれば、出産時にはエベレストの高さほどの分泌量になるという。それだけの量のホルモンが出産直後から急速に減り始めるというのだから、その変動たるや、相当のものである。体と心がついていかない女性が多いのもうなづける。
「産後は特に安心できる環境が必要です。安心感がホルモンの安定につながり、体と心の健康につながる。セルフケア能力が向上する。そうして初めて、前向きな子育てができるのです」と市川氏は語る。
産後サポートを「産後3週間」から「産後3カ月」へ延長すべき
産後のケアが大切ということを、昔の人々は感覚的に知っていた。日本には「床上げ」という、産後21日間は布団を敷いたままで、産後の身体をできる限り休めるといった文化があった。
「それでも、21日間のケアだけでは十分ではありません。少なくとも産後3カ月ぐらいまでは、周囲のサポートが必要です」と市川氏は強調する。退院直後から出産後3カ月までというのは、前述のとおりホルモン変化が激しく心身ともに不安定で、育児不安が最も高まる時期でもある。この時期に適切なケアを得ることが、親子関係の構築にも影響していく。こうした思いから、市川氏らは2015年10月、「3・3産後サポートプロジェクト」を立ち上げた。「3・3」とは、日本の産後サポートの意識を「産後3週間」から「産後3カ月」に延長しようというメッセージだという。
どんなケアが得られるの? 日本版ネウボラとは?
市川氏らが具体的に母親のニーズを探ってみたところ、出産による心身の疲労を癒せる場所、話を聞いてもらい、自分のことをを認めてもらえる場所が欲しいという声が多かったという。
フィンランドには「ネウボラ」と呼ばれる相談施設があり、専門職の支援チームと多職種が連携し、妊娠から出産、子育てまで、切れ目ない支援を行っている。日本でも厚生労働省が「日本版ネウボラ」として「子育て世代への包括支援センター」の普及を推進しており、山梨県の「産前産後ケアセンターママの里」、埼玉県和光市の「わこう版ネウボラ」など、少しずつではあるが導入事例も増えており、今後が期待される。
セミナーの最後、出席者からの「母親自身ができることは何か」という質問に対して、市川氏は、「『産後うつは誰にでもおこりうる。自分もなる可能性がある』ということを認識しておくこと。パートナーにも伝えておくこと」と答えた。