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【シリーズ「DNA鑑定秘話」第28回】

DNA鑑定秘話〜ハンカチに付着した100年前のプレイボーイの精液からDNAを検出

男系だけに伝わるY染色体がダンヌンツィオの精子DNAを暴いた

 微小な精液斑からダンヌンツィオの精子DNAをどのように検出したのか?

 精子の仕組みを少し復習しよう。1日に精巣で作られる精子の数は、およそ5000万〜1億個。大きさは、およそ60μm(0.06mm)。精巣で作られた精原細胞は、精巣上体(副睾丸)に運ばれる。精巣上体は、最大10億個の精原細胞を貯蔵し、精原細胞は、約70日間かけて分化し、精子に成熟して射精を待つ。射精1回当たりの精液に含まれる精子数は、およそ1〜4億個。元気のいい精子は、卵管を秒速0.1mmで進み、約5~15分で卵管膨大部にたどり着く。たどり着ける精子は、わずか数十個から数百個に過ぎない。

 このように受精のための重要な遺伝情報を持つ精子DNAは、射精後に消滅や変性、病原体の脅威などから自らを防御するために、強力な化学的バリアーを備えている。それが、スペルミンというタンパク質だ。

 今回のDNA鑑定のキーポイントは、DNAの中に男性だけが持っている性染色体のY染色体。つまり、男性だけに由来するY染色体中のDNAを調べれば、ダンヌンツィオのDNAとひ孫のDNAは完全に一致するので、ハンカチに残っていた精液斑の精子DNAはダンヌンツィオの精子DNAと確認できたのだ。

 ちなみに現在、精子DNAの検出に最も識別能力が高い試薬は、やや専門的だが、AmpFLSTR® Yfiler® PCR Amplification Kitという試薬だ。このkitなら、17種類のY染色体を1回のPCR反応でスピーディに増幅できるため、世界中の警察や法科学研究所で珍重され、犯罪捜査や親子鑑定などに活躍している。

 世紀を跨いで暴かれたプレイボーイの秘められたラブロマンス! サルデーニャ島の浜辺で肌を灼きながら、苦笑いしている色男ダンヌンツィオの顔が見えるようだ。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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