残念ながら罹患してしまったら、Ⅰ期で発見されれば局所治療法で治癒が望める。だが、進行したり、全身化すると、治療は基本的に抗がん剤治療も必要となる。ところが、TPP発効により、ますます抗がん剤が高騰することが確実視されている。
早期で発見し、手術または放射線治療で局所制御できれば、患者の身体的、精神的、経済的負担は軽く、健保財政にとっても負担軽減となる。今や国民総医療費は40兆円、国家予算の半分だ。
がんにならないに越したことはない。しかし、残念ながら罹患してしまったら、Ⅰ期で発見し、局所治療法で治癒するようにすべきだ。食道がん、胃がん、大腸がんなどでも内視鏡的な手術で済む。子宮頸がん、前立腺がん、肺がんなども、比較的侵襲性の低い治療で治る可能性が大きい。
そうすれば、まず患者は、肉体的、精神的な負担も軽く、経済的にも楽になる。家族の負担も軽くなり、仕事への影響も軽く、ひいては健康保険財政負担も減少する。
では具体的にどうするか? 早期がんで発見するためには、検診を受けるしかない。まず、エビデンスのはっきりしている検診を選定し、検討することが大事だ。
検診そのものも本当に「市民のための検診」かどうか、検討が必要である。そして重要なのは、検診が受けやすい条件を整えることが肝要だ。
強制力を伴った“全員がん検診”の実現
「がん対策推進基本計画」などでは、検診率50%が目標に掲げられている。がんが国民病だとすれば、結核のように法律で検診を義務づけ、100%検診を目指すべきではないだろうか。
結核で死亡する人の数は年間2000人強だが、がんによる死亡数は約40万人。結核の200倍近い死亡数だ。感染症法によって行われている結核検診のような強制力の伴った体制作りが必要だ。
結核の検診は、職場などに検診車が来て無料で受けられる。しかし、がん検診は、忙しい人などが検診を受けやすいようなシステムになっていない上に、基本的には有料だ。
「国民全員のがん検診を無料にするという膨大な予算はどこにあるか」という反論もあるだろう。だが、このままでは、国民総医療費は膨張するばかり。思い切って予算を投入すれば、徐々に費用減殺効果が出ることは明らかだ。この費用の投入は、がん検診を健康保険扱いにしても、結局、公費を使うのに変わりはない。
予算が無いかというと、そうでもない。現在の抗がん剤はほとんど全てが輸入薬品であり、年間輸入額は2兆5000億円以上にもなる。輸出入インバランスの大きな要因の一つにさえなっている。
TPPが発動されれば、倍の5兆円になるかもしれない。Ⅰ期のがんであれば、手術か放射線によって局所制御が可能なので、高い薬を使わなくても済む。
そうは言っても、ただちにがん検診を全額公費負担にするのは抵抗が大きいだろう。当面は保険収載して個人負担を軽減させることとし、全額公費負担へと徐々に移行するよう求めたい。
もう一つの問題としては、「検診マニア」のような人たちが、あちこちの病院で検査を受けたがることも懸念される。これは検診登録制度などによって、特別の指示がない場合は一定期間内の保険検診は受けられないようにすれば回避できる。
政治とは税金の使い道を決めることだ。正に、国民自らの選択にかかっているのではないだろうか。「市民のためのがん治療の会」は先頭に立って、こうした政策の実現に向けて、皆さんと共に進みたいと思っている。
皆さんからのご意見などを踏まえ、この趣旨を取りまとめ、政府、関係省庁、関係諸団体、報道機関等へ申入れを行いたいと考えている。
ぜひ、建設的なご意見を賜わりたい。
*ご意見はコチラまで。Email : com@luck.ocn.ne.jp
會田昭一郎(あいだ・しょういちろう)
舌がん治療による体験から、最適な治療の選択の重要性に気がつき、2004年、「市民のためのがん治療の会」を設立。セカンドオピニオンの斡旋や、がん治療に関する普及啓発活動、医療環境整備の政策提言などを行っている。2012年、標準治療に行き詰まった患者のために「一般社団法人 市民のためのがんペプチドワクチンの会」も設立。がんペプチドワクチン療法の啓蒙活動・情報発信、研究支援のための寄付活動などを行っている。