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【シリーズ「DNA鑑定秘話」第26回】

逆転無罪!鹿児島・強姦冤罪事件でも繰り返された当局のずさんなDNA型鑑定

 岩元さんは、逮捕から約2年4カ月間、勾留された。弁護団は「20代の若者の将来と自由が奪われた。その重さを捜査当局は受け止めてほしい。高検の上告断念で、岩元さんは日常の生活に戻れる」とコメントした。

 冤罪無罪の判決は、鹿児島県警や検察のDNA型鑑定のあり方を厳しく批判し、第三者による検証を求める世論を高めている。

 元東京高裁判事の門野博弁護士は「今回の判決は、鹿児島県警の手法を厳しく批判し、検査技官の力量や意図で都合のいいように鑑定結果を改竄・隠匿できる危険性も踏み込んで言及した」と一部メディアでコメントしている。

 警察庁は、DNA型鑑定の日時や方法などの経過をワークシートに適正に記録すること、公判での立証に耐えうる内容にすること、試料が微量でも鑑定することを、都道府県警に通達する方針という。

 岩元さんの冤罪を晴らした精液のDNA型鑑定は、どのように行なわれたのか?

 DNAには、ある特定の無意味な塩基配列が何度も繰り返す部分があり、繰返しの回数は個人によって違う。この繰り返す塩基配列をミニサテライトまたはVNTR(variable numbers of tandem repeat)と呼ぶ。

 このミニサテライトの繰り返しの回数によって、DNA型の塩基配列の長さが変わる性質を利用した鑑定法、それがDNA型鑑定だ。

 重要な遺伝情報を持つ精子のDNAは、射精後に消滅や変性、病原体の脅威などから自らを防御するために、強力な化学的バリアーを備えている。それがスペルミンというタンパク質だ。精子のDNAは、安定性が高く、ある種のタンパク質分解酵素でも分解できない。

 つまり、被害者の膣内体液と混合した精液からでも、特定の制限酵素を使えば、精子のDNAだけを取り出せる。その結果、被害者の膣内に残存していた精子のDNA型は、岩元さんと別人のDNA型であることを証明できたのだ。

 このような冤罪事件の報道があるたびに、捜査当局や検察の意図的な改竄や隠蔽が顕在化し、慄然とする。被疑者の人権擁護や罪刑法定主義の形骸化を恐れる。杜撰なDNA型鑑定の違法性は、厳に断罪されるべきだ。高精度なDNA型鑑定が果たすべき責任は、ますます重くなっている。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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