だが、実態はそれ以上に深刻なはずだ。経済格差が広がり、自己負担限度額以内の治療費すら支払えないというがん患者が増えている。ましてや民間のがん保険に加入する余裕などない低所得者はどうすればいいのか。さらには健康保険料さえ払えない無保険者も少なくない。この場合、イマチニブの薬剤費だけで年間で300万円以上となってしまう。
慢性骨髄性白血病は多くの患者で寛解を得られるようになり、普通の生活が送れるようになった。しかし、そのため薬剤の効果があるうちは、価格の高い分子標的薬を続けなくてはならない。多くの場合数年以上の負担が出てしまうといわれる。
治療薬により病状がコントロールされているにもかかわらず、経済的にゆとりのない患者は、治療を継続できなくなり、まさに金の切れ目が命の切れ目となっている。経済的な理由で抗がん剤治療を断念する〝静かな自殺〟もまれなケースではないとある医師は言う。
現行の高額療養費制度では、最も一般的とされる年収枠が210万~800万円と設定されている。つまり下限の200万円台でも800万円でも同じ額の上限設定となっているのだ。収入に応じたさらにきめ細かな医療費補助制度が不可欠だ。また、高額療養費制度そのものが、手術や入院など緊急時の一時的な医療費の負担を救うのが目的。イマチニブのような高価な薬を長期間服用する状況に対する配慮がなされていないなど改善点が多い。
この国のがん医療が〝金の切れ目が命の切れ目〟でいいはずがない。
(文=編集部)