カリソルブ治療で歯科嫌いも減少!?(shutterstock.com)
歯科治療に新しい風が吹いている。「カリソルブ治療」という新風だ。
これまで歯の治療といえば、ドリルを使って虫歯部分を削りとる治療をイメージするのではないだろうか。歯はエナメル質と象牙質で構成されており、硬いものを噛み砕くための役割を担っている。エネルギーを摂取することは、生物にとって死活問題。その重要な役割を担う歯は、一生大切に使わないといけない臓器なのだ。
しかし歯は、いったん失われると回復することがない臓器でもある。乳歯が抜けて、新しい歯が生えてくると、もう二度と歯が出てくることはない。
ドリルを使って虫歯部分を削り取る治療には、もともと賛否があった。口腔内という粘膜と神経が集中しているところに、電気ドリルという異物が入り、ドリルから伝わる振動音が頭蓋骨全体を揺るがせる。このときの恐怖を、虫歯が出やすい幼年期に体験してしまった人たちは、成人してから歯科嫌いになりがちだ。そして、歯に何らかの異常を感じても治療を先送りして、結果として症状を悪化させてしまうことが少なくない。歯の治療が歯科嫌いを増やしてしまうというジレンマと、歯科医は戦わなければならなかった。
歯科の世界では、ドリル治療以外の選択肢を用意することが長年の課題だった。それを解決する方法としていま注目されているのが、カリソルブ治療なのだ。
虫歯だけを除去するカリソルブ治療
カリソルブ治療は、北欧のスウェーデンの大学と複数の研究機関、製薬会社によって、1987年から約10年にわたって研究開発されてきた。1998年からスウェーデンで臨床治療に使われ、現在、約50カ国で導入されている。
その治療の原理はシンプルだ。次亜塩素酸ナトリウムと3種類のアミノ酸の混合溶液でできたカリソルブ溶液を、虫歯部分に塗布することで、その部分だけを柔らかくし、専用の道具を使って除去する。こうすることで、虫歯になった部分だけを除去することができるようになった。虫歯になっていない健康な歯の組織(象牙質)には、カリソルブ溶液は作用しないので、ドリル治療のように健康な象牙質まで削りとってしまうことはない。
よく知られているように、虫歯は生活習慣によって発生する。適切な歯磨きを毎食後に行い、虫歯の原因となるような糖質の食生活を避けることで、予防できるが、虫歯になる人は、この生活習慣を変えることがなかなかできない。
虫歯は、痛みが出た時には歯根まで虫歯が及んでいることが多く、歯の奥までドリルを入れないと治療ができない。そうなると、ドリルによって仕方なく健康な歯まで削ることになる。これが何度か繰り返さると、抜歯をして義歯を入れるか、インプラントのように金属の歯を埋め込む治療に進むしかない。
カリソルブ治療は、この悪循環を断ち切ることが期待されているのだ。