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【DNA鑑定秘話 第11回】

親子なのにDNA鑑定が不一致!? 10億人に1人のDNAを持ったシングルマザー

 その結果、リディアの子宮から検出したDNAが、赤ん坊のDNAと完全に一致。3人の子どもの親子関係が証明され、リディアは無罪になる。子どもたちを奪われることなく、生活保護を受けることができた。

10億人の1人に発現する極めて稀なDNA

 なぜ、このような不可思議な現象が起こったのか? それはリディアのDNAが、「DNAキメラ」と判明したからだ。

 ヒトの生命体は、1個の受精卵が細胞分裂と細胞分化を繰り返して形づくられている。つまり、すべての細胞は、細胞核の中に同一の染色体と遺伝子を持つ。DNAキメラは、細胞核の中に遺伝的に異なる2種類以上の染色体と遺伝子を持っている状態をいう。言い換えれば、同一の個体内に異なった遺伝情報を持つ細胞が入り混じっている状態だ。

 腎臓移植を受けたカレンのDNAと息子のDNAが一致しなかったのも、リディアのDNAと子どもたちのDNAが一致しなかったのも、2人の母のDNAがDNAキメラだったからに他ならない。異なる遺伝子が胎内に入ると拒否反応を起こすが、早い段階で合体した場合は、拒否反応は起きにくい。DNAキメラは、母胎内に別のDNAを持つ細胞が入り込み、そのまま母胎内で分化・成長したものと考えられている。

 ちなみにキメラは、ギリシャ神話に出てくる怪獣。頭がライオン、しっぽが蛇のように、数種類の動物の部分を融合した生きものだ。DNAを2種類もつDNAキメラは、世界で約30例の報告しかない。10億人に1人に発生する極めて稀なDNAといわれる。リディアのDNAキメラが教えるもの。それは、DNA親子鑑定は絶対ではない、死角が必ずあるという事実だ。


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。

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