心臓にも脳にも大丈夫?shutterstock.com
スマートフォンは、心臓ペースメーカーや除細動器などの埋め込み型医療機器から離して使用すべきであることが、新たな研究で示唆された。ペースメーカーを入れている人もスマートフォンを使用できるが、機器近くのポケットなどに入れることは避け、使用時は機器とは反対側の耳に当てる方がよいという。
研究グループによると、ペースメーカーはスマートフォンが発する電磁波干渉(EMI)を心臓信号と「誤認」し、作動を停止してしまうことがあるという。この停止時間はわずかだが、患者の失神を引き起こしうる。また、スマートフォンの干渉を異常な心拍リズムと解釈して、患者に電気ショックを与えてしまう可能性もある。
米国食品医薬品局(FDA)はすでに、携帯電話を埋め込み型医療機器から12~18 cm離して使用することを推奨しているが、この指針はスマートフォンが世に出る前の古い研究に基づくものだという。
今回の研究では、300人以上の患者を対象に、サムソン、ノキア、HTC製の3種のスマートフォンを、心臓機器を埋め込んだ部位の皮膚に直接当て、無線通信テスターを用いて発信、着信、通話、切断による影響を調べた。各患者の心電図を絶えず記録し、問題の徴候がないかを監視した。
3,400回を超える試験の結果、スマートフォンの干渉による影響がみられた患者は1人のみだった。この患者はMRI適合型の除細動器を埋め込んでおり、ノキアおよびHTCの製品で電磁波が誤認識された。この知見から、スマートフォンと心臓機器の「干渉」は「めったにないが、起こり得るものである」ことが示唆されると、研究の筆頭著者であるドイツ心臓センターのCarsten Lennerz氏は述べている。
別の研究では、高圧電線による埋め込み機器への影響についても検討されている。カナダ、モントリオール心臓研究所のKatia Dyrda氏らは、5社が製造する40種類のペースメーカーや除細動器をほぼ胸の高さで生理食塩水の水槽に入れた状態で、高電圧の電場に曝露させた。その結果、通常設定のペースメーカーでは影響はなかったが、高感度に設定された機器では影響が認められた。「患者は高圧電線の下を通るのを避ける必要はないが、真下に立つのはよいこととはいえない」とDyrda氏は助言している。ただし、自動車に乗っている場合は車体が影響を遮蔽してくれるため心配ないという。
この知見はイタリア、ミラノで開催された欧州心臓律動学会(EHRA)会議で発表されたが、医学誌に掲載されるかどうかは査読を受けてからになる。
電磁波とながらスマホはどっちが危険か?
日本では、2013年に「携帯電話の電波が心臓ペースメーカーに与える影響」について、総務省から新たな調査結果の発表および指針の改訂が発表されている。(平成25年度電波の医療機器等への影響に関する調査結果及び当該結果に基づく「各種電波利用機器の電波が植込み型医療機器へ及ぼす影響を防止するための指針」の改訂)。
その結果では「LTE端末を含む現行の携帯電話の電波は心臓ペースメーカー機器に影響しない」に加え、さらには携帯電話と無線LAN(Wi-Fi)を同時に使用した場合の影響についても「影響なし」とされている。
Carsten Lennerz氏らの研究でも、300人で3,400回を超える試験でスマートフォンの干渉による影響がみられた患者は1人のみだった。この数字が大きいか小さいかは難しいところだが、影響の可能性は否定できないものとなっている。
スマホの危険性では電磁波よりも"ながらスマホ"の危険性がはるかに高いのではないか? そんな研究を待ちたい。
(文=編集部)