肺がんの内視鏡ロボット支援手術については、2014年12月に先進医療を申請し、審議が継続中だ。「最近の肺がん手術は、VATS(video-assisted thoracic surgery)という胸腔鏡下手術が普及し、最も低価格な手術になっている」と話すのは、鳥取大学医学部器官制御外科学講座胸部外科学分野の中村廣繁教授だ。
ダ・ヴィンチを活用した肺がん手術は、縫合をスムーズに行えるほか、術中の輸血量や在院期間などでもVATSに比べて優位だが、VATSに対する有意差はまだ明確でなく、何よりも高価格がネックになっている。
中村教授は、グレード3以上の合併症を主要評価項目に挙げて先進医療を申請した。つまり、ダ・ヴィンチなら合併症発生率を9.1%から4%に低減できると考えた。しかし、評価項目が合併症だけでは、有効性は証明できないと判断されて承認は見送られた。「できるだけ早期に保険収載を実現し、ロボット手術加算を得れば、ダ・ヴィンチの肺がん手術の浸透に弾みがつくだろう」と中村教授は希望を捨てない。
2015年2月、ロボットとの共存をテーマに、「第7回 日本ロボット外科学会」が東京都内で開催された。今や外科医が医療用ロボットと恊働し、コラボレーションするのが世界の趨勢だ。臨床事例も増加し、エビデンスも潤沢になってきた。ダ・ヴィンチを開発したインテュイティブサージカル合同会社のDave Rosa氏は「今後はビッグデータや拡張現実(AR)、触覚(ハプティクス)、4K(4000×2000画素)映像など、最先端のIT技術を融合・統合していきたい」とコメント。ダ・ヴィンチの進化に賭ける夢をかぎりなく膨らませている。
内視鏡手術支援ロボットは医療の未来を変えるか?
内視鏡手術支援ロボットのもたらす低侵襲手術のシナジー効果は計り知れない。病院はより高い生産性と手術効率を享受できる。手術効率が上がれば、合併症や感染症が抑制され、輸血や術後管理のコストが削減される。外科医の手技や治療実績が向上し、モチーベーションやプライドも高まる。低侵襲手術によって、患者の術後の回復が早まり、入院日数も短縮され、医療経済に及ぼす好循環も見込める。内視鏡手術支援ロボットは医療をどのように変えていくのだろうか? その壮大なパラダイムシフトと驚異のイノベーションに私たちの未来は託されている。
(文=編集部)