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【医療用ロボットの進化と挑戦 第5回】

内視鏡手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」が活躍する 大腸がん、腎臓がん、子宮がん、肺がん

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米国インテュイティヴ・サージカル社が開発したダ・ヴィンチ・サージカルシステム(同社のHPより

 日本の臨床現場で活躍している内視鏡手術支援ロボット、ダ・ヴィンチ・サージカル・システム(以下、ダ・ヴィンチ)。前回、紹介した藤田保健衛生大学医学部の前立腺がん、食道がん、胃がんに続き、今回は、東京大学医学部附属病院などが取り組んでいる大腸(直腸)がん、腎臓がん、子宮がん、肺がんのケースを紹介する。

 東京大学医学部附属病院でもダ・ヴィンチの躍進がめざましい。内視鏡ロボット支援手術の期待が特に高いのは直腸がんだ。東京大学医学部腫瘍外科・血管外科/大腸・肛門外科の渡邉聡明教授によれば、直腸がん手術は、腹腔鏡下手術の普及率が約40%と高く、腹腔鏡下手術に対するダ・ヴィンチの利点や優位性が問われているという。

 ダ・ヴィンチの問題点としては、直腸がん手術は保険適用外のため、患者の自己負担額が200万円以上と高い。装置が大型な上に操作するための専門資格も求められる。時にはロボットアーム間の干渉がある。また、術者が触覚を感じられないなどの指摘がある。

「ダ・ヴィンチは、鉗子の動きの自由度が高く、カメラ画像を立体視できる。カメラがアームで安定的に固定されているので、手振れもなく、狭小空間で精緻な操作を続けてもストレスが少ない。操作の安定性が高いため、直腸がん手術に最適だ」と利点を強調する渡邉教授。

 直腸がんの手術では、がん組織や周辺リンパ節の切除だけでなく、排尿障害や勃起障害を防ぐために、細かい神経の処置が重要になる。渡邉教授はダ・ヴィンチを活用し104例の直腸がん手術を成功させているが、重篤な術後合併症は発生していない。

 ダ・ヴィンチを利用すれば開腹手術への移行率が低い点に気づいた渡邉教授は、開腹手術への移行率を主要評価項目に挙げて、先進医療を申請した。しかし、開腹手術への移行率は、術中の外科医の判断という主観的な要素が強い上、腹腔鏡下手術でも優秀な施設での開腹手術への移行率は1%に満たないと指摘された。

 なお、臨床試験の主要評価項目とは、治療の有効性または安全性を評価するためにプロトコル(臨床研究実施計画書)に記述された評価項目のうち、試験の主な目的に直結した臨床的・生物学的・医学的に有意な証拠を示せる客観的な評価項目をいう。

「先進医療承認のハードルは高い。開腹手術への移行率だけに注目せず、今後はロボット支援手術の何に着目し、どのような主要評価項目を設定するかが先進医療の申請時のキーポイントになる」と渡邉教授は話す。

先進医療に承認され、保険適用が視野に入った腎臓がん

 どの診療領域でも前途多難な内視鏡ロボット支援手術だが、保険収載の最短距離にあるのが腎臓がんだ。「ロボット支援による腎臓がん部分切除術が、2014年8月に先進医療に承認された。9月からは先進医療が始まり、2016年4月の保険収載の適用をめざしている」と述べるのは、神戸大学大学院医学研究科腎泌尿器科学分野の藤澤正人教授だ。

 腎臓がん手術にダ・ヴィンチを使う利点は何か? 「術中に腎臓への血流を止める阻血時間を短縮できる。阻血時間は術後の腎機能の温存を左右するので、阻血時間25分以内が死命だ。ダ・ヴィンチなら、手術の約80%を阻血時間25分以内に抑えられる」とダ・ヴィンチの高性能を挙げる。

 昨年9月から始まった先進医療では、臨床病期I期の腎臓がん患者を対象に腎機能温存と根治切除を行い、「切除断端陰性かつ阻血時間25分以内」を条件に従来の手術と比較・評価している。今年1月までに109例の登録が済み、手術106例の解析が始まった。従来の手術に対する優位性を示せれば、保険適用への道が一気に開けるだろう。

内視鏡下手術さえ普及していない子宮がん

 子宮がんはどうだろうか? 他の臓器のがんとは状況が大きく異なっている。子宮がんは、開腹手術がほとんどで、他の臓器ではダ・ヴィンチとの比較対象となる内視鏡下手術が行われていない。全国の内視鏡下手術の採用率は5%未満。そう指摘するのは、東京医科大学産科婦人科学教室の井坂惠一主任教授だ。

「婦人科領域を見ると、2009~2014年に東京医科大学を含む全国31施設にダ・ヴィンチが導入されているが、19施設は悪性がんの手術が対象だ。米国では、婦人科領域のがん手術にもダ・ヴィンチが導入されている。子宮がん手術にダ・ヴィンチを活用できれば、子宮全摘にリンパ節郭清(かくせい)を加える手術などで、出血量や合併症を低減でき、入院期間の短縮もできる」とダ・ヴィンチへの期待を込めるなお、リンパ節郭清とは、リンパ節を摘出し、内部に悪性がんが存在するかを検査し、がんのあるリンパ節を切除する外科的治療法だ。

 2010年に井坂主任教授は、子宮がんの内視鏡ロボット支援手術の先進医療を申請したが、脚下された。施設実施基準を明確にすべきという理由だった。現在、再申請の準備を進めているところだ。

先進医療の承認は近い肺がんの内視鏡ロボット支援手術

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