夢の新薬が肥満を救う? SONO/PIXTA(ピクスタ)
世間では、「騙す」ということは一般的によろしくないこととだとされる。だが、「騙す」の側面には少し違う意味もある。
「むずかる子どもを騙しすかして病院に連れて行く」という場合は、なだめることだし、「痛めた膝で騙し騙し歩く」といえば、様子を見ながら何とか使いこなすということになる。
また、「心頭滅却すれば火もまた涼し」は、心の持ち方ひとつでどんな苦痛も耐えられるとのたとえだが、要は自分自身を「騙す」ことである。
副作用がなくカラダを騙すフェクサラミン
自分の体を"騙して"ダイエットを成功させる薬なるものを、アメリカのソーク研究所のロナルド・エバンズ教授が、『ネイチャーメディシン』誌に発表した。プロモーションビデオによれば、「この薬は、あなたの体に、もう食事をしたと信じさせる」のだという。
この薬の主成分である「フェクサラミン」は、腸での胆汁酸の受容を活性化し、それが体重の減少や血中のコレステロール値の低下を促進する。フェクサラミンは、大量の食事をしたときに出るのと同じサインを発するのだという。
このサインを受けて、私たちの体は代謝を高める。だが、カロリーは摂取していないので、体重が減りコレステロール値も低下するのである。
フェクサラミンによって、体は「大量の食事をした」と騙されるが、欲望を制御する脳は関知しないので食欲にはまったく影響がないという。
さらに興味深いのは、血液中に溶けないため、副作用の心配がほとんどないことだ。たとえば、現在アメリカなどで市販されている、カフェインを主成分とする食欲減退薬は、さまざまな副作用を引き起こす。肺の血圧の上昇、心血管の病気、不眠症、食欲不振などだが、エバンズ教授の新薬は、胃腸でのみ作用するためこのような心配はほとんどない。
世界は肥満に向かっている!?
この新薬は、現在マウスでの研究で効果が確かめられ、近々ヒトへの臨床実験が開始されるとのこと。ネズミの体は騙せても、人間の体はどうだろうか。
エバンズ教授は、「ゆくゆくは、外科手術かこの薬かを選択するようになるだろう」と自信を見せる。なにしろアメリカは、胃を小さくするなどの肥満治療のための外科手術が、年間21万件も行われている肥満大国だ。
ちなみに、2013年の「世界肥満実態(GBD)調査」では、世界の成人に占める過体重・肥満の割合は、男性37%、女性38%だった。1980年にはそれぞれ29%と30%だったから、約1,3倍の増加である。
2013年の日本の成人に占める過体重・肥満の割合は、男性31,2%、女性22,2%。どちらも世界平均よりは低いものの、男性の割合が高いのが特徴だ。
さらに意外なのは、過体重・肥満の多い国ベスト10の顔ぶれが、アメリカを除けば先進国といわれるところが少ないことである。
過体重・肥満の多い国は、1位:アメリカ、2位:中国、3位:インド、以下ロシア、ブラジル、メキシコ、エジプト、ドイツ、パキスタン、インドネシア。これから経済成長が見込まれる国々が多い。今後、肥満化していく人類を救う道は、カラダを騙す薬に委ねられるのだろうか。
(文=編集部)