締めのラーメン、その一杯が恐怖の未来を招く
2015年1月27日、厚生労働省が「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~(新オレンジプラン)」を公表し、ニュースやワイドショーでもひとしきり認知症が話題になった。
日本の認知症患者は、2012年時点で約462万人、65歳以上の高齢者の約7人に1人が認知症だ。さらに団塊の世代が75歳以上となる2025年には、65歳以上の高齢者に対する割合が約5人に1人に増える見込みだ。
認知症にはいくつかのタイプがある。60%近くを占めるのがアルツハイマー型認知症、次いで多いのが15%前後を占める脳血管性認知症。
このどちらの原因にも大きく関わっているのが食生活だ。認知症患者が増えている原因としては急速な高齢化が大きいが、若年性認知症の増加が目立っていることを見ても、そこには戦後の日本の急激な食生活の変化が大きく影を落としていることがわかる。
アルツハイマー型認知症の原因は炭水化物
アルツハイマー型認知症の直接的な原因は2つある。
ひとつは老人班(ろうじんはん)。アルツハイマー型認知症の患者の脳には、神経細胞毒性の強いアミロイドβが集まった老人班が見られ、その老人班が脳の細胞を死滅させる。もうひとつは神経原線維変化。リン酸化されたtauタンパクが神経細胞内に蓄積することによって神経原線維変化が起こり、脳の神経細胞が委縮してしまう。
このどちらにもインスリンが深く関わっている。インスリンとは、血液に含まれるブドウ糖の量、「血糖値」が高くなったときに膵臓から分泌され、ブドウ糖を必要とする体内の随所に運ぶホルモンである。
インスリンは脳でもさまざまな役割を果たしていて、そのひとつがアミロイドβの分解だ。血糖値が高い状態が続くと、血糖値を下げることに忙しくなるため、インスリンが脳に充分に届かなくなり、結果、アミロイドβが分解されずに、脳に溜まってしまう。また、血糖値が高い状態が続くと、次第にインスリンの効きが悪い「インスリン抵抗性」になる。インスリン抵抗性の状態では、インスリンからのシグナルが伝わりづらくなり、それによりtauタンパクのリン酸化が進み、神経原線維変化が起こる。
つまり、血糖値の高い状態が続くことで、アルツハイマー型認知症を発症しやすくなるのだ。実際、糖尿病の患者がアルツハイマーを発症する率は、健常人の2倍である。
血糖値はどんなときに高くなるのか? その犯人としては、ケーキやジュースなどの糖分だけを思い浮かべがちだが、それだけではない。白米や白いパンなど、精製された炭水化物をたくさん食べると、血糖値が急上昇する。炭水化物から生まれるブドウ糖は、脳に欠かせぬ栄養。極端な炭水化物不足も体によくないが、過剰な摂取は高血糖を招き、さらに危険である。
一食あたり、ご飯なら茶碗に軽く1膳、食パンなら1枚半程度、麺なら1玉程度、食事も1日に3回までにとどめたい。できれば、玄米や全粒粉のパンなどを選ぶと、血糖値の上がり方がゆるやかになり、インスリンがあまり分泌されずに済む。また、食事の最初に野菜などの繊維質を摂ることでも血糖値の急上昇は止められる。
エネルギーを使わない夜遅い時間帯の炭水化物の摂取はご法度。なかでもアルコールを飲んだ後の、夜中に食べる「締めのラーメン」は最悪だ。そもそも締めのラーメンが欲しくなるのは、アルコールによる脳の錯覚。アルコール分解のために肝臓がブドウ糖を使用して、一次的に血糖値が下がるため、脳は空腹だと勘違いする。それにまんまとだまされてラーメンを食べると、今度は一気に血糖値が上がってしまう。そんな生活を繰り返せば、認知症への道まっしぐらだ。
脳血管性認知症の原因は脂と炭水化物
脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって、脳の一部に酸素や栄養を運ぶ血が運ばれなくなることによって、脳細胞の一部が死んでしまうことで引き起こされる。
脳血管障害の原因は、ずばりメタボリックシンドローム。そもそもこの概念は、脳血管障害予備軍を洗い出すために考えられた。内臓脂肪型肥満に加え、糖尿病や高血圧、脂質異常症、あるいはそれらの病気の予備軍であれば、メタボリックシンドロームと診断される。
メタボリックシンドロームは不健康な食生活と運動不足が原因だ。糖尿病を招く食事については、アルツハイマー型認知症で記した通り。高血圧の原因は、酒、たばこ、ストレス、そして塩分の多い食事だ。日本人の食事は塩分が多い。本来は1日に1.5gの塩で足りるが、日本人の場合、そこまで急激には減らせないと、厚生労働省が1日に摂取していい塩分量はその4倍の6gと定めている。
ラーメン1杯のスープに含まれる塩分量はおよそ6g。つまり1日に本当に必要な塩分量の約4倍であり、たった1杯で1日に摂取していい許容量に達している。まかりまちがっても、締めのラーメンのスープを飲みほしてはいけない。高血圧を予防するためには、塩分を排出してくれるカリウムを多く含む野菜をたくさん食べるべきであり、野菜が少ない外食には注意が必要だ。
高脂血症と肥満を招くのは、カロリーが高い動物性脂肪と、精製された米や麦といった血糖値を急上昇させる炭水化物の組み合わせだ。血糖値が急上昇するとインスリンが大量分泌され、食べたものを一気に脂肪として蓄える。そのため、カロリーの高い食事がエネルギーとして使われることなく、皮下脂肪として溜めこまれてしまう。牛丼や天丼、脂がギトギトのラーメンなどは最悪の組み合わせだ。
食事の最初に野菜などの繊維質のものを食べ血液をサラサラに、悪玉コレステロールや中性脂肪を減らしてくれる青魚や、悪玉コレステロールの排出や血圧を安定させる大豆たんぱくをメインに、炭水化物は控えめの量を食事の最後に食べる。これがメタボリックシンドロームを防ぎ、認知症を予防する食事だ。
(文=編集部)