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がんの発症率が高まる? 更年期障害の「ホルモン補充療法」に対する誤解

乳がんや子宮体がんの発症率は本当に高まる?

 ひとつは「ホルモン」という言葉に対する恐怖心だろう。何かわからないが怖いもの、体を著しく変えてしまうもの、というイメージを持つ人が多いようだ。他の薬は平気で飲む人でも、ホルモンと聞いただけで腰が引けてしまうのだ。わずかな量でかなりの効果を上げることからくる誤解だろうか。
 
 もうひとつは、乳がん発症率を上げるというデータだ。エストロゲンは毎月の生理の際に多く分泌され、エストロゲンにさらされる期間が長いほど乳がんになりやすい。妊娠中はエストロゲンの分泌が抑えられるが、多産だった昔の女性に比べて、現代女性は生涯に産む子供の数が少ない。それに加えて栄養状態や体格がよくなり、初潮開始の年齢が早まったことも、エストロゲンにさらされる期間を長くする要因となっている。
 
 1960年代にHRTが始まった頃は、エストロゲンだけの単独投与だった。すると、治療を長期間受けた女性は子宮体がんの発症率が上がった。その後プロゲステロン(黄体ホルモン)を併用するようになってからは、子宮体がんの発症率も平均的となった。併用のしかたはいくつかあるが、2~4か月に一度程度、10日間ほどプロゲステロン製剤を服用するのが一般的だ。

 プロゲステロンの服用が終わると、エストロゲンによって厚くなった子宮内膜がはがれ落ち、月経様の出血を起こす。出血量は少ない。このように子宮内膜が定期的に更新されるため、むしろ子宮体がん発症率が減るという報告もある。

 乳がんについては、以前アメリカで、2割ほど発症率が上がるというデータが発表された。その結果HRTを行う女性が減り、それに伴って乳がん発症率も減少した。しかし、これをそのまま日本に当てはめられるかというと、否定的な研究結果が多い。日本女性については有意な差が認められないというのだ。

 ただし、服用期間が5年を過ぎると、乳がん発症率が増えるという報告がある。4年を超えてHRTを行ったら、中止のデメリットと乳がん発症率上昇のリスクとをはかりにかけて、以後どうするかを判断する必要がある。なお、自己判断でいきなり中止するのは、体調悪化の危険があるので避けてほしい。医師の指示に従って、様子を見ながら少しずつ減らしていくのが一般的である。

極端に低い日本のホルモン補充療法の実施率

 国によって多少の差があるものの、もっとも普及率の高いオーストラリアでは56%、欧米でも30~40%となっているが、日本では2%に満たない。更年期障害に悩む女性のうち、治療が必要と思われる人50人のうち、49人はHRTをせずに我慢していることになる。

 HRTを開始しても、効果がないと思ったらいつでもやめられる。ただし勝手にやめず必ず医師の指示でやめる手順を踏んでほしい。HRTを半年や1年試してもがんの発症リスクが上がることはない。更年期障害を無駄に我慢せず、毎日の生活を大切にして欲しいものだ。
(文=編集部)

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