国民皆保険制度には国家による強力な中央集権体制が必要Shutterstock.com
世界に冠たる日本の国民皆保険。いつでも、どこでも、誰でも、比較的低料金で医療サービスを受けることができ、そのおかげで、日本人の平均寿命は飛躍的に伸びている。また、日本はOECD(経済協力開発機構)諸国の中でも国民医療費が低く抑えられ、まさに世界の見本になるようなすばらしい医療制度である――。そのように、よく言われている。
確かにこのような側面があり、それは非常によい面だと言える。しかし、このよい面とぴったり対になっている裏面を、日本人はなぜ見ないとしないのだろうか?
このような「よい面」を実施するためには、非常に強力な中央集権体制が必要であり、「よい面」が進展すればするほど、必然的に国家の権力が肥大化していくのである。
具体的に平成27年度予算と医療費を材料にして考えてみよう。
閣議決定された平成27年度予算を見ると、一般会計歳出は96兆円。その約3分の1にあたる32兆円弱が「社会保障関係」に当てられている。さらにその社会保障関係費の約3割にあたる9兆円強が「医療費」の歳出となっている。
国民健康保険は慢性的赤字体制に悩んでいる。この赤字を削減させるため、厚生労働省は平成30年4月に、国民健康保険の運営母体を現在の市町村から都道府県に移す予定である。規模を大きくすることによって、国民健康保険の財政基盤をよりよいものにすることが目的である。
また、財政支援のために、政府は平成27年度、国民健康保険に1700億円の国庫支援をする予定である。これほどの国庫支援をする説得的な理由があるのか否か、議論が必要だろうが、ここまではまだ許容範囲かもしれない。
「社会全体で高齢者を支えよう」という美名のもとの欺瞞
しかし、政府が恣意的に、しかも一方的に、健康保険組合や共済組合の「後期高齢者医療制度への支援金」を増やすのは、一線を超えた行為だと言えよう。
加入者の平均収入が高い(したがって収入に比例する掛け金が高い)という理由だけで、「社会全体で高齢者を支えよう」という美名のもと、私有財産が収奪されるのである。もちろん、健康保険組合や共済組合の同意なく、厚生労働省が一方的に、強制的に、没収するのだ。
75歳以上の高齢者が加入する医療保険制度が「後期高齢者医療制度」である。この制度を運営するにあたって、健康保険組合や共済組合が「後期高齢者支援金」として拠出することになっているが、それが全体の約4割を占めている。
共済組合は、同じ職種に属しているという共通認識をもった人が集まって形成されている。そのグループの社会保障や福利厚生を少しでも充実したものにし、いざというときに同じグループに属する仲間がまとまったお金を使えるようにするため、グループ内で掛金をプールしているのである。
共済組合とは、「組合員の、組合員による、組合員のための互助組織」というのが基本原則である。共通の利害を有するからこそ助け合いができるのだ。
後期高齢者支援金は、この基本原則を破るものであり、しかも国家が強制的にそのようにするのである。「世界に冠たる日本の国民皆保険」には、このように、国家権力の肥大化という負の側面がつきまとうのである。自由を選ぶのか、強制力による安定を選ぶのか?