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政府と東電は内部被ばくを意図的に無視しているのか? これから現れる健康への影響 

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ホールボディカウンタではガンマ線しか検出できない?!

 東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所事故は、広範な地域を汚染し、深刻な被害をもたらした。現在も多くの人々が、避難先で生命と暮らしを脅かされた生活を送っている。

 原発事故による放射線被ばくの主なものは、呼吸や飲食を通しての「内部被ばく」だ。空気や水、土が放射性物質に汚染された場所では、防護しなければ呼吸や飲食物、傷口から放射性物質が体内に入る。また、汚染された食物や水を口にすることでも、放射性物質は体内に入ってくる。

 放射線には種類があり、空気中を飛ぶ距離や、他の物質を通り抜ける力が違う。政府や政府に助言する専門家は、被ばく影響の評価を主に測定しやすいガンマ線に頼っているが、内部被ばくでは、ベータ線やアルファ線の方が人体にはるかに大きな影響を与える。

 外部被ばくでは、放射性物質のプルトニウムから出るアルファ線は皮膚の表層で止まるので影響は小さい。ストロンチウムから出るベータ線は皮膚や筋肉で止まるが、線量が高いとやけどのようになる。セシウムから出るガンマ線は、体の奥にある重要な臓器まで届く。

 放射線は放射性物質から遠くなるほど弱くなるため、放射性物質に近寄らなければ、外部被ばくは避けられる。しかし、内部被ばくの場合、臓器が放射線を直接受けるため、よりダメージは深刻だ。

 放射性物質によっては特定の臓器や器官に蓄積することがある。物質を通り抜ける力が弱いアルファ線も、内部被ばくでは狭い範囲に集中的に当たるため、細胞や遺伝子を大きく傷つける。

 来年3月で原発事故から4年を迎えるが、いまだ事故に伴う汚染水問題は続く。現在、第一原発の敷地内には地上タンクが約1000基設置され、約35万トンの汚染水を保管。東京電力は放射性物質を取り除くため「多核種除去装置(ALPS)」を3基設置したが、昨年3月以来運転停止を繰り返し、当初今年4月に見込んでいた本格運転も始まっていない。しかも、ALPSではトリチウムという放射性物質を除去できずに水で薄めて放出するしかない。

 安倍普三首相は10月の参院本会議でも、「全体として汚染水はコントロールされている」と従来の見解を繰り返していたが、12月17日、東電は海に流せないレベルの汚染水6トンが配管から漏れたトラブルを発表。いまだに予断を許さない厳しい状況だ。

ホールボディカウンタではガンマ線しか測定できない

 だが、政府と東電は、ベータ線を放出するストロンチウム90やアルファ線を放出するプルトニウム239などの測定をほとんど行っていない。内部被ばくの特性と、その健康影響を意図的に無視し続けているかのように。

 福島県が実施している「ホールボディカウンタ(WBC)」による内部被ばく検査では、これまでに約17万9000人が検査を受け、約99.9%以上の人が1mSv未満という相当低い結果が得られた(平成26年1月31日時点)。これについて同県は、「全員、健康に影響がおよぶ数値ではない」と評価した。

 しかし、体の外側から直接放射線を測定するWBCでは、ガンマ線しか測定できず、精度の高いWBCでも検出限界は250ベクレル程度だといわれている。つまり、アルファ線やベータ線の内部被ばくには、全く別の測定方法が必要なのだ。

 その方法が、尿、血液、母乳、毛髪などから放射能を測定して体内の放射性物質の蓄積度合いを推定する「バイオアッセイ法」だ。放射性ヨウ素、放射性セシウム、放射性ストロンチウムなどが検出可能で、体内にベータ線を発する放射性物質が微量でも存在すれば、ほぼ確実に検出される。なかでも最も効率的なのは尿検査で、幼児など十分な検体量が採取できない場合でも詳細な調べることができる。

 環境省は12月18日、東京電力福島第1原発事故による放射線の健康への影響や、住民の健康管理に関する専門家会議(座長=長瀧重信・長崎大名誉教授)を開催。「がんと被ばくの関連を適切に分析できるように、調査体制を充実させることが重要」とする中間報告書をまとめた。

 放射線科医としてがん患者3万人を治療してきた北海道がんセンターの西尾正道名誉院長は、「多くの国民の健康被害に関係するにもかかわらず、国はバイオアッセイで測ろうとする姿勢をもっていない。これでは科学的にものを考える気がないのではないか、事故による将来の被害を隠蔽するために測定しないのではないか、と言われてもしかたがない」と訴えている。

 "適切な分析"と"調査体制の充実"を図るなら、国はバイオアッセイ法での検査を広く行うべきではないだろうか。
(文=編集部)

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