【病気の知識】
子宮筋腫とは、子宮筋層内の平滑筋成分より発生する良性腫瘍(こぶ)で、子宮体部(子宮の上方)にできることが多い病気です。
発生原因は不明ですが、筋腫が妊よう性のある婦人に限られることから、卵胞ホルモンであるエストロゲンが発育に関係するとされています。なお、閉経後の退行はエストロゲンからの離脱のみならず、血流の減少によると考えられています。
頻度は、筋腫結節が小さい場合や無症状では発見されることも少なく、正確な頻度は不明ですが、過去の開腹例や剖検例の成績から出血、疼痛等の症状を引き起こすことのある生殖年齢の婦人においては5~10%、40歳以上の婦人においてはさらに10~20%が子宮筋腫をもつとされまる。8歳から認められますが、実際は20歳以前、50歳以降の発生はまれです。
子宮内のできる場所は「子宮体部:90~95%」「子宮頸部:4~5%」「子宮腟部:1%」の割合です。また子宮筋肉との位置関係によって筋層内筋腫、粘膜下筋腫、漿膜下筋腫の3つに分けられます。
●筋層内(壁内)筋腫:50〜70%
最も多いタイプで、筋腫が子宮筋層内に発育し、これに伴って子宮が変形します。
●粘膜下筋腫:15〜25%
筋腫発育とともに、表面の子宮内膜を圧迫して、子宮内膜が偏位・非薄化し、その部の壊死、感染病巣をおこし出血しやすくなります。ときには筋腫が有茎ポリープ状になり、筋腫ポリープと呼ばれます。筋腫ポリープが子宮口の頸管内、あるいは腟腔内にでてきた場合には、陣痛様の痛みと出血を伴うことがあるため筋腫分娩といいます。
●漿膜下筋腫:15〜25%
子宮漿膜直下に位置し、子宮から外方へ発育し、典型的なやつがしら状の結節状子宮を形成します。筋腫が子宮広間膜内に発育するときは、これを広間膜内筋腫といいます。これは尿管や腸骨動静脈を圧迫したり、周囲の組織と癒着を起こしやすく、しばしば手術を困難にします。ときに有茎漿膜下筋腫が周囲臓器、腹膜、大網等に付着し、そこから血液供給を受けるようになると子宮から分離して、寄生筋腫となります。
①過多月経(漿膜下筋腫のみの場合は通常伴わない)
②月経困難症・月経痛:粘膜下筋腫の場合に強く、約50%といわれる子宮内膜症合併例では極めて強い場合があります。狭い頸管を月経血が通過する時に痛みが出るため出血量と平行します。
③不整出血:粘膜下筋腫の場合に多く見られます。
④不妊(着床障害)不育症(流産):不妊率は30~50%です。筋腫の10~30%に流産が認められます。流産の発現は粘膜下筋腫、筋層内筋腫に多くみとめられます。
⑤貧血心臓障害(筋腫心臓):長期にわたる過多月経、又は不整出血のため、慢性失血性貧血(鉄欠乏性貧血)になり、不整脈や心機能不全をおこしたりします。
⑥下腹部圧迫症状(下腹部痛、頻尿、便秘、下腹部膨満感):筋腫が増大すれば、膀胱、尿管、直腸、更に骨盤底の血管・神経を圧迫し各症状を伴います。漿膜下筋腫に多い症状であり、とくに広靭帯内筋腫で早く現われます。
⑦下腹部腫瘤感:お風呂などのお腹が弛緩した状態や寝てひざを立てた状態で触れやすくなります。
⑧妊娠に合併した子宮筋腫の症状:筋腫の発生部位・大きさ・数等によって異なります。妊娠中に筋腫の軟化,位置の移動等が見られるため、漿膜下筋腫や筋層内筋腫でも小さくて少数の場合は妊娠分娩に影響はほとんどありません。しかし時には流・早産、胎位異常、微弱陣痛、弛緩出血、子宮復古不全等をおこす恐れがあります。
①問診:前述した臨床症状を参考にします。
②内診所見:圧痛のない硬い表面平滑の腫瘤、腫瘍は通常子宮とともに動くきますが、有茎筋腫の場合には別に触れます。
③腟鏡診:筋腫とくに頸部筋腫の場合に子宮腟部の偏位が見られます。筋腫分娩では、頸管から灰赤色、平滑な腫瘤をみますが、感染、壊死により表面が暗赤色、脆弱となる。
④子宮ゾンデ(消息子)診:子宮腔内の長さと方向がわかります。
⑤超音波検査法:子宮に充実性腫瘤が認められ、大きさが測れます。卵巣病変との鑑別を行います。
⑥骨盤MRI、CT:卵巣腫瘍あるいは他の骨盤内腫瘤との鑑別のために行います。筋腫の診断上極めて有用で、筋腫の位置、大きさ、子宮内膜・頸管との関係について正確にわかるため、従来鑑別が困難であった壁内筋腫と腺筋症、漿膜下筋腫と卵巣腫瘍との鑑別もT2強調画像により比較的容易になりました。しかし有茎性漿膜下筋腫にしばしば認められる液化変性の著明なものでは、卵巣嚢腫と区別はできません。
⑦HSG:筋腫核出手術ではとくに必要ですが、子宮腔の拡大、変形、陰影欠損、内腔の延長や腫瘤の子宮腔内突出などをみます。閉経後婦人の筋腫では、石灰化を認めることがあります。
⑧血液検査:血色素により貧血がわかります。CA125等の腫瘍マーカーにより子宮内膜症の推定ができます。
⑨骨盤動脈撮影法:腫瘍の血流がわかります。
⑩細胞診・組織診:細胞診や組織診は、頸癌や体癌などの合併症を否定するために行います。
治療法には大きく分けて下の3つに分けられます。
①手術療法
(1)子宮全摘出術:腹式、腟式
(2)筋腫核出術
②薬物療法=Gn-Rha:生理を止めて症状の進行を防ぐ
③その他:血管塞栓術、冷凍凝固法など
筋腫の治療は患者の年齢、腫瘤の大きさ、発生部位、症状の有無と程度、挙児希望の有無などにより決定されます。患者に訴えがなく、腫瘤も小さく、閉経後の場合には治療は必要ではありません。このような場合には3~6か月ごとに検診を行い,異常発育や合併症のチェックを行ってゆきます。筋腫による不正出血があったら、子宮内膜細胞診か掻爬診を行って、悪性病変の存在を否定しておきます。悪性病変のない閉経間近かの症例では、適当な支持療法や内分泌療などの対症療法でコントロールできる場合があります。
筋腫が大きいとき、とくに腹部違和感を生ずるときや、ほかに明らかな原因がないのに不妊のとき、子宮筋腫ばかりでなく卵巣腫瘍などの他の病変を合併するときには、治療の対象となります。大ささについては、筋腫子宮が手拳大以上のときには治療の対象とすることが多いです。
①手術療法
(1)子宮筋腫核出術
症状のある患者にとって、手術療法は第1選択となります。妊よう性温存のためには筋腫核出術を行います。有茎粘膜下筋腫で茎が細長く、それを捻転することにより容易に摘出することができる場合は、経腟的に筋腫摘除術を行います。多数の筋腫核出術を施行したときには、子宮周囲臓器との癒着や腸管閉塞などの術後合併症を生ずることがあり、また再発の頻度が高くなります。したがって単一の筋腫核出術は推奨できますが、多発性の筋腫に対する核出術は、挙児希望の若年者で、ほかに妊よう性を障害する原因のない婦人にのみ行われるべきです。妊娠中に筋腫核出術をするのは妊娠維持が困難と診断される場合ですが、大量出血の恐れもあり、流早産後の非妊時に核出手術を行うのが安全です。
(2)子宮腟上部切断術
本術式は癒着が極めて強く、尿管走行が不明な場合とか、患者様の状態が不良(poorrisk)で手術侵襲を少なくする必要のあるときに行われます。しかし、本術式では子宮腟部を残すので、将来断端癌(子宮頸癌)発生の可能性があることと、術式の進歩により単純摘出術を行っても,手術過誤を起こすことはほとんどなくなったことから、主として単純子宮出術が行われることが多くなりました。
(3)単純子宮摘出術
腹式手術と腟式手術とがあります。腹式では、①手術野が広く、操作が比較的容易である、②巨大腫瘍や癒着性ものは、腹式によらなければならない、③腹腔内他臓器の合併疾患の診断、手術を行うことができる、などの利点があります。
腟式では、①腹式に比して手術侵襲が少なく、術後回復が早い、②腹壁に手術創を作らず、術後の痛みが軽く、美容的によいなどの利点があります。②薬物療法薬物療法は患者の年齢,挙児希望の有無、症状の程度を考慮して適応と投与期間を決めます。
②薬物療法=Gn-Rha:生理を止めて症状の進行を防ぐ
Gn-Rhアゴニストは、下垂体のGn-Rhに対する感受性を低下させ、産生、分泌を抑制して卵巣機能を抑制し、エストロゲン分泌を低下させます。筋腫の縮小効果は投与開始8~12週のころまでは急速であるが、以後緩徐となります。また,治療後8週日ごろから、子宮や筋腫核は再び腫大し始め、臨床症状の再発を認めることが多いです。粘膜下筋腫以外の手術前処置や手術の延期のため、また手術ができない方の治療や、過多月経・月経痛などに対する対症的処置として行なわれます。
腫瘍成因の原因が不明なので特別な予防法はありませんが、卵胞ホルモンによって成長するため、ホルモン剤を使用した養殖の肉・魚を避けたほうが良いという意見もあります。
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