【病気の知識】
腱鞘炎は腱を包む腱鞘の炎症です。毎日の動作で擦れあうことで一時的な腫れが起きますが、通常は短期間に回復します。しかし、繰り返すうちに小さな古傷が積み重なって、痛みや腫れとして発症します。体の部位によって特徴的な症状があります。また、個人差が大きく、遺伝的になりやすい素因があるようです。腱鞘炎かと思ったらガングリオンと呼ぶ小さなゼリーの入った袋(良性腫瘍)が原因だったりする場合があります。腱鞘炎に痛風が合併していたり、小さな傷からの化膿である場合あります。
基本的には特定の動作にともなう痛みと腫れ、熱感があります。
○手指(手のひら)
典型的には「バネ指」と呼ばれる狭窄性腱鞘炎があります。特に親指(拇指)に多く、第2指、第3指など全指に見られます。痛みから始まり、ギシギシ滑りの悪い症状がでて、手のひらに、腱に一致した動く瘤をふれるようになると、靭帯性腱鞘のトンネルと瘤のサイズが合わなくなり、引っかかります。朝の寝起きに明らかです。これが進行すると、一度曲げると引っかかったまま痛くて伸ばせない状態になります。無理に伸ばすとパキッと音がします。これがバネ指です。
○手首(親指側)
典型的な腱鞘炎として茎状突起痛と呼ばれるものがあります。親指と人差し指(示指)が一番離れる動作をすると浮き出て見える複数の腱の腱鞘炎です。ここにも腕時計の位置に靭帯性腱鞘があります。やかんのお湯を注ぐ、フライパンを持つなどの動作で激しく痛みます。
○手首(小指側)
手首小指側には尺骨が飛び出して見えます。この外側を巻いて通る腱にも腱鞘炎が見られます。手を着く動作や、手首をこね回す動作で痛みます。関節の弛緩が負担になったり、手首のケガのあとにおこることもあります。
○肘
俗にテニス肘と呼ぶ状態があります。ラケットなど負担のかかる状態で手首を起こす動作をすることで筋肉自体や、筋肉が肘の骨に付着する糊付け部分が傷になった状態です。バックハンドの動作や、やかんのお湯を注ぐ、フライパンを持つなどの動作で痛みます。
○肩
いわゆる四十肩、五十肩と呼ばれる肩が疼く、肩が上がらない状態のときに、肩の関節を包む複数の腱鞘炎が合わさっている場合があります。
○アキレス腱
アキレス腱だけは今までの腱鞘とは違って、腱包というカバーで包まれています。腱が太くしっかりしているのに腱には血管が乏しく、いったんアキレス腱包部分の炎症を起こすと、痛みが強く長期の治療となる場合が多くなります。慢性化すると、ケガがないのに腱がちぎれてしまう例もあります。朝一番の動きが窮屈になります。
腫れて痛くて熱をもつ急性期には、熱容量の大きい湿布薬を用いたり、アイシングで積極的に冷却しつつ鎮痛消炎剤を用います。原因となった動作作業を避けて、痛みのでる動作も避けましょう。
慢性期にはテープタイプの貼付剤を貼るとテーピング効果、サポーター効果と合わせて動作が楽です。1日中貼付を続けると皮膚に負担となるため、時々はクリームやゲル剤を使用します。腱鞘炎で滑りが悪くなった部分がさびつかないために、そっとだましだまし、ゆっくり時間をかけてストレッチを行います。仕事としては使わないが端から端まで動かしてあげましょう。筋肉の萎縮を防ぎ、局所の浮腫や循環不良の改善に効果的です。
ストレッチ体操も無理な疼痛なら、注射する場合があります。局所麻酔剤に少量のステロイドホルモン剤を合わせて注入します。多数回、頻繁な注射はかえって腱を傷める場合があります。
激しい痛みの腱鞘炎ですが、仕事は休めないなどの場合には専用の装具で動きを制限したり、仕事に合わせたギプス固定を行う場合もあります。
バネ指や手首の腱鞘炎で痛みがひどいケースでは、手術が必要となります。局所麻酔ですから、前述の腱鞘内注射の量がやや多いという感じでしょうか。靭帯性腱鞘のトンネルを切開して広げる手術です。通常は通院で手術できます。
キーボード作業など同じ動作の繰り返しや、ラケットやクラブなど梃子の原理で負担が大きくなるスポーツ、家事など1日中使いつづけることが原因ですから、これらをほどほどにする必要があります。上手な休憩が大事です。
遺伝的素因、関節の柔らかさ、逆に固すぎること、もともと腱鞘が窮屈に出来上がっているなど、腱鞘炎になりやすい方がいます。この場合には人並みの使い方でも腱鞘炎になります。
四十肩など特定の年齢で出やすくなるのは、自己修理の能力が低下した面と、動脈効果など局所の栄養補給の衰え、それまでの長期間の古傷の積み重ねを考えられます。高血圧症、高脂血症、糖尿病など生活習慣病は誘因となり、治療の長期化に影響します。
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