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第6波の渦中にあり、民間病院の院長が本音を吐露

第6波で救急病院としての機能果たせず

 そしてその後オミクロン株によるCOVID19感染爆発が起きた。

 先に述べたようにオミクロン株によるCOVID19感染症の多く、特に若い世代では大多数が肺炎の無い上気道炎が中心だ。在宅や施設での経過観察が望まれるが基礎疾患がある場合や高齢者は入院適応であり、行政からの依頼で空きベッドがある限り受け入れている。

 当院は脳血管疾患、心臓血管疾患、大腿骨頸部骨折を含む外傷を救急の柱に据えて診療を行ってきた。コロナ蔓延下における診療では、発熱を有するこれら疾病者への緊急治療を中心に地域医療に邁進してきた。しかしコロナ患者受け入れ要請に応えることで年末年始まで行っていたCOVID19感染症のスクリーニング病棟としての機能は失われ、個室が無い限り発熱患者の受け入れは不可能となった。即ち冬期になり増加する脳血管疾患や心臓血管疾患、骨折等の患者でも発熱があれば受け入れ不可となってしまったのだ。

 私は毎朝夜間の救急受け入れについて報告を受けている。12月末まではこのワンステップ病棟を使用することで、これらの緊急治療を要する患者を多く受け入れ、当院が果たすべき役割を十分に果たしてきた。しかし最近は救急車受け入れ率が30%程度まで低下し、救急病院としての機能を全く果たせずにいる。忸怩たる思いで一杯だ。

 なぜこうなってしまったのか?

極めて困難な中小民間病院のコロナ対策

 オミクロン株に変異したCOVID19感染症についての特徴や分析、社会経済との関連には各種の専門家がおりメディアを通じ発言されている。私はこのような方々の様な専門知識は持ち合わせておらず、細かな情報を集積し分析する時間も力も無い。しかし現場の声を聞かずして理論を展開することに大いなる違和感を持っている。

 ウィズコロナの時代と言う発言を聞く。しかし今、発熱外来やコロナ病床を持つ病院のあり方についての発言は決して多くない。

 コロナ患者と一般患者診療は導線を分けて行う必要がある。しかし多くの開業医の方々も我々民間の中規模以下の病院も導線を分けることが難しい。

 多数のコロナ疑い患者診療(発熱外来)が可能なのは広い面積を有する診療所や病院である。報道では工夫して頑張っていますという医師が良く出演している。頑張っていることは素晴らしいし有り難いことだとは思う。しかし頑張ってやれば誰でも出来ると言う理屈は誤りだ。

 一般診療の患者も来院する中で一人でもコロナ患者が紛れてしまえば、このオミクロン株によるCOVID19感染症は待合室で急拡大する可能性があるからだ。如何に水際対策をしてもコロナが上陸したように、一般診療の中で完全なる分離など非現実だ。

コロナ専門病院と一般救急病院の機能分担を

 だからこそ今必要なことは、コロナ診療病院と他の急性期診療病院を明確に分けることではないのか。

 発熱を有する乃至はコロナが心配な患者は各地域の公的病院、特に国立病院及び尾見会長のJOHO等のいわゆる第3セクター病院群を完全なコロナ病院化し、その他の疾病には各種機能を持つセンター病院や大学病院、地域の基幹になる民間病院に急性期患者を集中させ分離する事で、今起きている急性期医療の崩壊は回避できると考える。

 国立系病院群は国費で購われており、このような有事に対応するのが本来の使命と思う。しかし現在の第3セクター病院群の一部は、経営を重視し高度医療を目指して設備投資や人員を集めている。今我々病院群は機能分化すべきであって、お互いに患者獲得や機能を争っている時では無い。第3セクター病院群は国の力で再開は可能だが、民間病院群は経営破綻すればそのまま消滅するだけだ。
 
 COVID19感染症への対策は今後も必要であり、それ以外の新興感染症対策が緊急で必要になるときは常に起こりうる。有事への対策は平時から考慮されるべき問題だろう。

救急病院として本来の役割を果たしたい

 今回のコロナ議論の中で、病床の多くを占める民間がなぜ協力しないのかという論調がしばしば聞かれた。

 繰り返し言うが、民間は医療以外の部分はほぼ切り捨てて、地域医療に専念している。厳しい医療費改定の中、救急診療等で何とか利益を出し設備投資と人員確保を行っている。一方で一部の公的病院も民間もコロナ病床を多数持つことで補助金を得て黒字化しており、実際には患者がおらず幽霊病床と呼ばれていたこともある。この補助金での黒字化は本来の急性期病院の在り方では無いと、心ある民間医療機関なら皆感じている。一日でも早く本来の急性期医療に戻り地域に貢献したいのだ。

 オミクロン株は重症者が少なく5類にすれば良いと聞く。インフルエンザが施設で発生、多数の死者が出た事は以前からあり正論かもしれない。しかしそのためには国民の理解が必要だ。ネット社会の中、不安を煽るサイトやワクチン接種に対しても副反応への危惧から反対意見も数多く、ただ5類にするだけでは解決にならないだろう。

 COVID19感染症対応には患者の導線を分ける必要があり、医療も棲み分けが必須だ。

 都立病院は第5波で多くの病院をほぼコロナに特化して戦ってくださった。
今後は国立ないしは第3セクター病院群をコロナ化し、夜間救急でもコロナ疑いはこれらの病院群で対応し、棲み分けを行うことで医療崩壊は食い止められると考える。

 日本ではコロナ専門病院を作ることなど直ぐに出来るわけがない。今ある病院群の中で国命の元、直ちに方向を転じられるのは経営を考えなくても良い国立や第3セクター病院群だ。一般患者受け入れは民間を含む病院群にお任せいただきたい。

 今が本当に大事な時なのだ。是非とも早くご決断願いたい。
(文=都内民間病院長)

※医療バナンス学会発行「MRIC」2022年1月27日より転載(http://medg.jp/mt/)

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