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新型コロナ PCR検査をクラスター追跡と重症者のみに固執する厚労省①

行政検査の枠に当てはめて診療所での唾液PCR検査の実施を制限している

 冒頭でお示ししたとおり、練馬区ではほかの区に先駆けて診療所での唾液PCR検査がようやく今週からできるようになった。といっても個々の診療所がそのための認可を東京都から取得するのは容易ではない。保険適用が認められている検査でありながら、感染症法という法律の枠内で行う行政検査に位置付けてしまったため、東京都と個別契約を交わさない限り検査することは認められず、その契約を交わすのに1ヶ月以上も掛かる煩雑な行程を踏まなければならない状況に置かれている。練馬区の場合はなんとか医師会が東京都と集合契約を結ぶところに漕ぎ着けてようやく検査ができるようになったのだ。行政はどうやら軽症・中等症のPCR検査は積極的に増やすつもりは今でもないらしい。

必要なのはクラスター潰しではなく、検査が必要な人が検査を受けられること

 一般市民と現場の医療機関が望んでいるのは、我々市民が必要な時に必要な検査を受けられることであって、クラスター潰しではない。統計や文献と向かい合って仕事をしている公衆衛生の専門家はすぐに事前確率うんぬんという机上の理論を振りかざすが、個々人からすれば確率などはどうでもいい。自分か感染しているのかどうか、それさえ解ればいいのだ。検査が必要なのは「事前確率が高い集団」なのではなく、感染したときに重症化する可能性のある「リスクが高い個人」なのだ。臨床に携わっていない統計の専門家にはその事が理解できないようだ。

「社会全体の感染拡大を広げないようにするにはどうしたらいいか」(A)ということと、「ある個人が感染した疑いにある時にどう診断してどう対処していくか」(B)とは全く別次元の問題であって、前者は公衆衛生、後者は医療であり、この2つを混同して論じてはいけない。Aのためには検査は必要ないと判断するのは一つの選択肢であっても、そのためにBのための検査が必要ないということにはならない。Aの専門家がBにおける検査の必要性にまで言及するのは越権行為であり、BにはBの専門家(現場の臨床医や感染症の専門医)がいるのだ。そして往々にして行政はAにばかり躍起になり、Bのことは置き去りにする傾向がある。

 行政に直接携わっておられる方々も、霞ヶ関を出て現場に足を運んで現場の生の声をきかなければ実態を把握する事はできない。現場の医師やジャーナリズムがいくら訴えかけても悲しいかな行政が変わることはほとんどないのが日本の現状だ。行政を動かす事ができる方々の奮起に期待したい。
(文=和田眞紀夫)

和田眞紀夫(わだ・まきお)
わだ内科クリニック院長

※医療バナンス学会発行「MRIC」2020年7月13日より転載(http://medg.jp/mt/)

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