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外国人労働者・旅行者による未払い医療費には医療通訳が有用

外国人旅行者・労働者の医療費の未払いが急増

 外国人旅行者が無保険で入国し、日本滞在中に病気やケガで病院にかかった際の医療費が未払いとなっているケースが増加している。観光庁の調査では、訪日客の約27%が保険未加入で入国している。また、厚労省の調査によると、2018年度に訪日客を受け入れた医療機関のうち、およそ2割の医療機関で医療費の未払いがあった。放置すれば死に至る可能性がある患者を目の前にして、医療機関は支払い能力がないことを理由に治療を拒む事はできない。

 支払えそうもないからといって医療機関が診療を忌避して押しつけ合うようになると、病人はより重症化し、最終的に病院の損失はさらに大きくなる。医療費が高額になることが見込まれる場合には前払いを求めたり、親族からの国際送金や、金融機関からの借り入れを促したりと対策を取っているが、なかなか上手くいかない。

 病院として他にできる対策はないだろうか。

 今回紹介した事例は示唆的である。中国語ができるスタッフが病状と入院の必要性について細かく丁寧に説明することで、患者側の病状と必要な治療に対する理解が深まった。また、具体的にかかる金額の概算を明示することで家族からの協力を得ることができた。私はこのケースは医療通訳の有用性を示していると考える。

 医療通訳の存在が外国人に対する医療を円滑に進めた例は多い。神奈川県では1993年から、県が損失を受けた医療機関に対してその一部を補填する制度ができている。その補填額が医療通訳制度の始まった2002年をピークに大きく減少に転じ、直近4年間の平均は約20万円とピーク時の100分の1程度まで減少している。つまり、外国人労働者による医療費の未払いは劇的に減ったのである。

 通訳が入ることで外国人患者が早期に病院を受診できるようになったこと、病院の医師も言葉が分かるので迅速な診断ができ、結果として医療費が少なくて済むようになったことなどが大きいだろう。2020年の東京五輪・パラリンピック開催を直前に控え、医療機関での外国人のトラブル防止のために、医療通訳の存在意義を見直し、特に外国人が多く受診する病院では重点的に配備する必要があると思われる。
(文=大橋浩一、都立墨東病院循環器科)

医療バナンス学会発行「MRIC」2019年11月18日より転載(http://medg.jp/mt/)

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